元姫様はご臨終
序章

桜吹雪の夜で醜態を

 「百合(ゆり)ちゃんに、虐められてるの!」

 午前0時44分。月の出ない闇夜が窓を飾る、深夜のこと。

とある倉庫の幹部室の扉を開けると、異様な光景が広がっていた。

夜空の空気はシンと静まり返っており、澄んだ叫び声と淡い雨音だけが耳に響く。

 そして目の前で泣き崩れる少女を、呆けた姿勢で見つめた。

足がピタリと歩む事を辞め、瞳孔が限界まで開き、思考回路も停止する。


 、、、え?


 一瞬、部屋に響く言葉の意味を理解できなかった。

咄嗟に出た一文字の言葉だけでは、その台詞の真意が見抜けない。

 なので一度息を止め、その言葉をよく味わう。

理解してはいけないと脳が赤く警報を鳴らすが、浸透していくように考察は進んでいく。

『ユリちゃんに、虐められたの』

 彼女の言葉を何度か心の中で反芻し、少しずつ溶ける様に理解していく。

記憶の破片がその言葉の意味を紡ぎ、意味を解きほぐす事ができてしまった。

 私は彼女に、嵌められたのだ。

そう悟るには、もう遅い。
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