元姫様はご臨終

悪い子どこだ

 倉庫から追い出され、一時間が経った。

今は摩天楼が建ち並ぶ街の中心で、一人彷徨っているところだ。

雨が頬を伝い、それを拭う。味はしない。

今の私の心には、醜い憎悪しか残っていない。

仲間に見つからないように、黒いパーカーのフードを深く被る。

 今までの思い出の破片が、燃え尽きてしまったようだ。

全てなかった事になり、恨みで記憶が塗り替えられていく。


 本当ならば、ここで感傷に浸るのが物語のヒロインだろう。

そして自分も悪かったと反省し、次の恋を探すものだろう。

しかし、私はこの舞台では悪女にしかなれなかった。

ヒロインになりたくても、その枠は強欲な彼女に盗られてしまった。

 本当は、私があそこに残るべきだった。

あんな女なんかに、私の居場所が奪われた。

それが、この上なく悔しい。

 あんな下民女に、私の楽しみを奪われるなんて。

してやられた。ならば、やり返すのみ。


 私が味わった屈辱を、倍以上で返してやる。

傲慢な彼女の事だから、私に嵌められたと知ればたちまち怒り出すだろう。

自分のプライドが壊れたと泣き、私を恨むだろう。

 だから、彼女の全てを壊してやる。

彼女に恨まれることが、私の最大の快楽となることだろう。
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