女帝は道化師に愛される
 心を弾ませながら、路地裏に足を踏み入れる。

今丁度、憂鬱で落ち込んでいたところだ。

ここで一つ、憂さ晴らしといこうではないか__

 
 路地裏の様子を一言で言うと、『人類が滅亡した世界線の街並み』だ。

ゴミ箱は横に倒れ、中から異臭が漂い、ハエが集っている。

唯一の灯りであるランプは、チカチカと眩い光を放っていた。

そしてアスファルトの床は苔や水溜りがあり、スニーカーに泥水が染み込む感触がする。


 薄暗く、表の眩い光は一切当たらない。

そんな不思議な世界に怯むことなく、足を進めていく。

私は強い。過信でも慢心でもない、正真正銘の事実だ。

 不良に負けたことはないし、元彼氏のユウヒと戦っても勝算は私にあるだろう。

だから、ストレスが溜まった時はこうして危ない現場に足を踏み入れることも多々あった。

親というストッパーが動かなくなった私は、なんでもやりたい放題なのだ。


 水が跳ね返る音が響き渡り、怒号も大きくなってくる。

 「てめぇ調子乗ってんじゃねえぞ!」

 「僕はそんなつもりじゃないんだって〜」
 
 骨が折れる音、水が跳ねる音、肌に手がぶつかる音。
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