元姫様はご臨終
 煽り気味に鼻を鳴らし、残ったもう一人の男に向き直る。

さっきまで酷い音が聞こえていたが、彼には傷がついている様子がない。

というか、ピンピンしている。普通に立っている。

痩せ気味だが、しっかりとした体つき。

多分、この人は強いのだろう、、、

 
 一瞬で、目を奪われた。

彼の顔を確認した途端に、吐き気を覚えたほどだ。

とてもこの世に存在していいとは思えない。そう思うほどに顔が整った美男子。

水も滴るいい男、というやつだろうか。雨のおかげでその妖艶さが浮き彫りになっている。

 濡れた前髪の隙間から覗く昏く底が見えない瞳は、私を堕とすかのような危険さを感じた。

直感が、コイツはヤバイと告げている。

 逃げるか、立ち向かうか。

その二択ならば、前者の方が賢明な判断だ。


 フードを軽く押さえつけ、その場を離れようとする、、、

が、肩を後ろからガッシリと掴まれ、後ろを振り向かざるを得ない状況になる。

 仕方なく後ろに首を向けると、柔らかく微笑んだ貴公子がいた。

 「助けてくれてありがとう」

 「え、、、あ、そう。」

 突然のお礼に、少々尻込みする。

それよりも恐れおののいたのは、その顔だろうか。

貼り付けた偽造の笑顔が、なんとも恐ろしい。
 
 私も同じくそれらしい笑顔を貼り付け、順応に対応する。
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