女帝は道化師に愛される
 「うわぁ。凄くデッカい」

 「でしょー」

 大理石の床が広がるエントランスで、感嘆の息を吐く。

感動しかない。自分がこんな場所に来るとは思っていなかった。

 中学生まで住んでいた何もない地元と比較すると、どうしても涙が出て来てしまいそうだった。

これが都会というやつか。ここまで身に染みて体感するのは、上京して最初の頃いらいだ。

慣れてきていた摩天楼に再び感動するという予想外の事態に驚きながらも、ヤナギについていく。


 ヤナギは胡散臭い男だが、その奥に圧倒的な才能がある。

普段から大きなリアクションを取っている彼は、一見幼稚な人間のように見える。

しかし、所々に感じられる気品さは本物だ。

 やはり育ちの良さというものは滲み出てくるもの。

彼はきっと、本当のところは賢い。

こんなに大きい高層ビルを資産として持っている人と知り合いなのだ。

 そんな大金持ちが馬鹿と交渉をする訳がない。

つまり、彼の本性はこれではない。

ミヤビのように、偽っているのだろう。
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