女帝は道化師に愛される


 『ごめん。ちょっと急ぎの用事入ったみたいだから、二人で遊んで』

 液晶越しで聞こえてくる内容は、まさかのドタキャン。

少しいつもよりも低い声に新鮮味を感じる。

珍しく息が上がっている様で、本当に急いでいるという事がこちら側にまで伝わってくる。

 しかし今出発する直前というのに、予定を変えるなどありえない。

呆れと困惑が混じり上ずった声で、電話主に確認を取る。


 「ヤナギ、本気で言ってるの?流石に失礼にもほどがある」

 『ごめんね。本当に外せない用事なんだ。また今度二人だけでどっか行こう。奢るから』

 スマホから聞こえてくる申し訳なさそうな声。

急な変更に少しムカつくが、ヤナギの奢るという話で許してやることにする。

ヤナギが居ないのは心許ないが、なんとかなるだろう。

 そう考えていると、横にいたカヤがヤナギに向かって礼を述べる。

 「ヤナギさん、俺にチャンスをくれてありがとうございます。ありがたく頂戴致します」

 『お前になんてあげたくなかったんだよ。ユリになんかしたら殺すからな』

 「へーい。切りますよー」

 「あ、カヤ!じゃあねヤナギ」

 隣で嬉しそうな顔をしたカヤが、スピーカー状態にしていた通話をピ、と無理やり終了に持ち込む。

すると画面は真っ暗闇になり、心配そうに眉を下げた私が映り込む。

彼にとっては喜ばしい事なのだろうが、私からしたら残念な事だ。

 コイツと1日二人っきりで遊ぶ、、、

凄く不安だし、気まずい。絶対。

 恐る恐る横を見ると、彼は満面の笑みで私を迎い入れた。

それをぎこちない微笑みで返し、スマホ画面に視線を落とす。

 今日一日中隣から送られて来るアピールをどう躱そうか__
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