波間に揺れる白い星
新しい暮らし
「はぁ……暑い……。」
恭介(きょうすけ)はキャリーバッグの取っ手を握りしめながら、玄関先で立ち尽くしていた。
目の前の古びた木造の家は、いかにも沖縄らしい赤瓦の屋根と白い壁で囲まれている。
青空に映えるその姿はどこか絵画のようだったが、慣れない暑さのせいで感傷に浸る余裕などなかった。
「なんで俺だけ…短期移住で知らない人と住まなきゃ行けないんだよ、親父たちはホテルに泊まっちゃってさ…」
「恭介くんだよね?これで荷物は全部?」
不意に声をかけられて顔を上げると、そこには少女が立っていた。
彼女は白いワンピースを着ていて、長い黒髪が肩から風に揺れている。
「え、あ、はい。これで全部です。」
慌てて返事をした恭介の声は、少し裏返っていた。
目の前の少女は、美咲(みさき)と名乗るこの家の住人だった。
「よかった。それじゃあ、こっちにどうぞ。」
美咲は小さく微笑みながら家の中を案内してくれた。
その控えめな笑顔に、恭介は一瞬で視線を奪われた。
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