白波銀行おひとりさま女子事情

「山崎さん」

相談課長である井波課長に声をかけられた。

井波(いなみ)課長は、四十代後半の温厚で優しい課長だ。

小学五年生と中学一年生のお子さんがいて、“優しいパパ”オーラが滲み出ている。

職場内でも、相談課長にしては珍しくおっとりしていて優しくていい課長だと言われている。

「今日、瀬戸さんいい感じだったみたいだね」

「あ、はい」

「山崎さんは対応や説明が丁寧でわかりやすいっていうお客様の声もあるみたいだから、今後もその調子で頼むね」

満面の笑みで言われた言葉が嬉しい。

窓口に出始めたばかりの頃は迷惑をかけてばかりだったし、ミスして怒られて泣いたりもしたけど、少しは成長できているのかな。

「ありがとうございます。お先に失礼します」

「おう、お疲れ様」

今日もいつも通り仕事を終えて帰路に着く。

特別なことなんて何も起こりはしない。
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