白波銀行おひとりさま女子事情
その頃から漫画家として売れ始めていた母親は毎日原稿の締め切りに追われて部屋に引きこもっていた。
母が忙しい時は、近所にある祖父母の家に預けられて過ごすことが多かった。
「ねぇ。おかあさんのとこ帰っていい?」
「お仕事の邪魔になっちゃうから、もう少し我慢してね」
「……うん。わかった」
寂しさを隠して、妹とふたりで遊んでいた思い出も多い。
母が私を育てるためにどれだけ必死に働いていたか。
当時の母と同じ年になった今なら、その苦労が少しわかる気がする。
離婚して女手ひとつで子供を育てるのには、相当の覚悟が必要だ。
そんな母親の背中を見て育ってきたからか、私は子供の頃から結婚に対して憧れがなかった。
友達同士の会話で、「何歳までに結婚したい?」と訊かれても答えられなかった。
自分が結婚している姿なんて想像できなかったし、ましてや母親になるなんて想像もつかない。
つまり私には結婚願望というものがない。
それがいいことなのか、悪いことなのか、私にはわからない。