求職令嬢は恋愛禁止な竜騎士団に、子竜守メイドとして採用されました。
 子守歌を歌っていたら、ずっと無言だった団長の声が聞こえて、私はパッと目を開けた。

 その時に私の視界に目に入ったのは、黒い子竜の可愛い顔だ。

「えっ……」

 繭の中に居るはずの、アスカロンだった。

 アスカロンだったけれど、あまりにもいきなり過ぎる展開に、何が起こったのか頭が追いつかずに言葉をなくしてしまった。

「キュ……」

 大きな黒い瞳は、涙がこぼれんばかりで、潤んでいて……私と同じように。

「ああ。ウェンディが子守歌を歌い出してから、繭から出て来たんだ。怪我をさせてしまった君が怒っていないか、とても心配している。早く抱きしめてやってくれ」

 その時の団長は、とても優しい表情をしていた。

「あなたを怒ったりする訳がないわ!」

 私はこの時まで、泣くのをずっと我慢していた。一番に泣きたいと思っていたのは、アスカロンだろうから。

 柔らかくてまるまるとした身体を抱きしめて、私は声をあげて泣いてしまった。良かった。アスカロンが助かって……お世話になっている団長を、どうしようもなく困らせなくて済んで。

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