求職令嬢は恋愛禁止な竜騎士団に、子竜守メイドとして採用されました。
「まあ。駄目よ。リシャール……貴方が貴族学校を出てさえいれば、お父様が借金を返せなくても実業家になる道だってあるわ。貴方には教育は必要なの。亡くなったお母様だって、そう望むはずよ」

 それを言いつつ私は、どうしようと困り果ててしまった。リシャールが心配していることに関しては、一理あるからだ。

 何も出来ないと言われてしまえば、それはその通りで、確かに私は何も出来ない。

「それはもう……仕方ないよ。何もかも衝撃だよね。僕は貴族の身分には未練はない。姉さんが心配だよ。妙齢になった貴族令嬢を、何の保護もなく市井に出すなんて、どうかしている」

 私たち二人の父ジョセフ・グレンジャーについて、今ここに残された私たちを見た誰かに、とんでもない父親だと言われてしまっても仕方ない。

 けれど、私は父には悪気はないことを理解していた。あの人はひとつのことに集中してしまうと、それ以外のことを考えられなくなってしまう。

 長年暮らした家族だからこそ、父のそういう性質を知っていた。

 きっと今は、お金を返すために稼ぐことしか、考えられないのよ。

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