求職令嬢は恋愛禁止な竜騎士団に、子竜守メイドとして採用されました。
 アスカロンの慌てたような鳴き声が聞こえて、私ははっとして頭を上げた。そして、頬を滑り落ちた涙を手で拭いて彼に笑顔を見せた。

「何? どうしたの? お腹すいた? ……少しだけ待ってね。すぐに用意するから」

 慌てて近付いて、アスカロンの頭を撫でると、黒い子竜は嬉しそうな顔をしていた。

 私はアスカロンには、涙を見せたくはない。可愛いこの子には何の関係ない事だし、お世話をする私の機嫌が良い方がこの子だって機嫌が良くなる。

 そして、ここでようやく気がついた。

 これは団長だって、同じことだ。部下にあたる私の前ではあの人はいつも平静で、何でもない顔をしているけれど、今は自分を嫌っている目上の王族から無理を押し付けられ辛く苦しいはずだ。

 けど、私には何の関係もないから気にするなと、さっき出て行った時にそう言いたかったんだ。私は自分が庇護する存在だから、何も気にしなくてなくて良いと。

 ……団長は私のことを、守ってくれたのに。私には何をすることも出来ない。

「ッキュ?」

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