求職令嬢は恋愛禁止な竜騎士団に、子竜守メイドとして採用されました。

23 目眩

「ウェンディ」

「はっ……! はい!!」

 私は書類を手にして廊下を歩いていると団長に呼び止められ、驚きのあまり素っ頓狂な大きな声を出してしまった。

 周囲に居た竜騎士たちも驚いた様子で私たちが居る方向を見ていたし、団長が『なんでもない』と片手を振ってようやく彼らからの注目が収まった。

 明らかにおかしな動きをしてしまったけれど、恐縮してしまうしかない。もう嫌……何か隠し事するなんて、私は向いていないわ。

「すまない。驚かせたか」

 心配そうな眼差しで私を見つめ、何も悪くないのに自ら謝ってくれる団長。なんて優しいの。

「いえ……団長は何も悪くありません」

 本当に、悪くないです。私が嘘が、とても下手なだけで……。

「いや……ああ。何を考えているか、わかっているから、大丈夫だ。ウェンディに、少し頼みたいことがあってな」

「はい。もちろんです! 何でしょう?」

 私は団長に頼みたいことがあると言われ、とても嬉しかった。

 団長はここまで私のお願いを聞いてくれたり、上司として色々と助けてくれたりとしてくれていたけれど、私がこうして彼の頼みを聞けたことはなかった。

 ……嬉しい。何か私が出来るなら。

「俺の知り合いの娘が、有名店のお針子になりたいらしいんだ……だが、その店は採用基準が高いようで」

 団長が口にした店名はディルクージュ王国でも有名で、お客を選び人気があるため、貴族令嬢たちはそこでドレスを造ってもらうことを待ち望んでいる方も多い。

「まあ。素敵な夢ですね」

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