求職令嬢は恋愛禁止な竜騎士団に、子竜守メイドとして採用されました。
 お金を稼げて……それに、ご飯も美味しいし、子竜は可愛いし……こんな働き先に雇って貰えて、本当に幸せなのに……それでも。

 一夜にして失ってしまったものを、全部忘れてしまうなんて……すぐには出来ない。

「もし……夜会に行く機会があるなら、俺と踊ろう」

 私が彼の顔を見ると、団長は黙ったままで、私の頬の涙を拭ってくれた。

「え……?」

「踊ることは嫌いではない。踊りたい相手が、居なかっただけだ」

 団長はそういえば、幼い頃から迫られすぎて、貴族令嬢が嫌いだった。私も貴族令嬢ではあるんだけど……それらしくないから、良いのかしら。

「団長。私……あの」

「体調が優れないと、悲観的になることがある。ウェンディはよくやっているし、俺も君がここに居てくれて助かっている……食事を持って来るよ。少しでも食べた方が良いだろう」

 改めてお礼を言おうと思った私の言葉を遮り早口で言った団長はそう言うと、私の部屋を出て行った。

 その行動に呆気にとられつつも、ベッドから身を起こして立ち上がった私は、涙を拭うと顔を洗って髪をとかした。

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