求職令嬢は恋愛禁止な竜騎士団に、子竜守メイドとして採用されました。
 まるで、悪夢のような出来事が通り過ぎてしまえば、夢は夢でいつか目が覚めるはずだって、そう思っていた。

 ……けれど、いつまで経っても、私は目覚めないまま。

 だとすると、これはまぎれもなく、逃げようもない現実だった。

 伯爵令嬢として貴族に産まれ、身分に相応しい男性と結婚して、そして、子を産み育て、女主人として邸を取り仕切る。

 ついこの間まで、当たり前のことのように描けていた未来を、私はもう何一つなくしてしまった。

 これからは名ばかり貴族として、生きて行く金銭を稼ぐために何か職を持ち、生きていく道しかない。

 グレンジャー伯爵家で長く働いてくれて慣れ親しんだ使用人たちも、お父様が徹夜して用意した紹介状を手に皆去り、今この邸に残っているのは、グレンジャー伯爵家の三人だけ。

 先祖代々住んでいたこのグレンジャー伯爵邸も、明日には人手に渡ってしまう。それはとても悲しいことだけれど、借金を返すためには仕方のないことだった。

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