求職令嬢は恋愛禁止な竜騎士団に、子竜守メイドとして採用されました。
 この大広間に……団長は、どこかに来ていないかと。

「……ウェンディ」

「ああ……セオドア」

 そこに現れたのは、アレイスター竜騎士団で私のことを揶揄っては楽しんでいたセオドアだった。

 少しだけガッカリしてしまったけれど、声を掛けてくれた事自体は嬉しい。

 今夜は素敵な夜会服に身を包み、頭の後ろで黒いリボンで金髪を纏めて、そんな彼はどこからどう見ても素敵な貴公子だった。

 ……なのに、本当にどうしてなのかしら。どことなく、うさんくさく感じてしまうのは。

「ああ。ウェンディがいきなり帰って、寂しかったよ。アレイスター竜騎士団の皆も言っていたよ。空間に華がなくなって、寂しいって。いつも居てくれると思った存在が突然居なくなると、こんなにも心の中が空しくなってしまうものなんだね」

 大袈裟に嘆く仕草をしたので、私は苦笑して彼の元へと近付いた。

「……ふふ。そう言っていただけて嬉しいわ。セオドア。あの、団長は来ていないの?」

 片腕と言える彼ならば知っているかもしれないと私が聞けば、セオドアは不思議そうな表情で肩を竦めた。

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