求職令嬢は恋愛禁止な竜騎士団に、子竜守メイドとして採用されました。
 これまでに社交界デビューを控えて伸ばしていた癖のない長い銀髪も、少しでもお金になるというのならば切る時が迫っているのかも知れない。

 だって、私に美しく長い髪があったとしても、明日食べるご飯がなければ、生きていけないもの。

 もし、ここに亡きお母様が居れば、きっと『さて。これから、どうしようかしらね』なんて言いつつ頬に手を当てて、困り眉になってしまっているはずだ。

 お母様は本当に育ちが良くて、おっとりした性格だった。生きてくれていたなら、信じていた友人に裏切られてしまったお父様も支えてくれたかもしれない。

 私たち三人は、ついこの前まで着用していたはずの貴族服やドレスをすべて売り払ってしまい、今では古着屋で購入した平民服を身につけ、誰も居なくなった玄関ホールに集まっていた。

 父から身の回りの荷物の整理を済ませたならば、ここに集まれと告げられていたからだ。

「先祖伝来の宝物も……我が家の財産は、すべて売り払ってしまった。すまない。この邸も明日には、人手に渡ってしまうだろう……ウェンディも社交界デビュー寸前だったと言うのに、本当に申し訳ない事をした」

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