求職令嬢は恋愛禁止な竜騎士団に、子竜守メイドとして採用されました。
 先ほど着替えをした部屋の隣室へと案内されて、私は湯浴みも済ませてはいないけれど、埃よけの掛けられたベッドに飛び込みたい思いでいっぱいだった。

 とにかく、今はもう横になりたい。

 ジリオラは埃よけの大きな布を外し、舞い上がった埃を逃がすために窓をいっぱいに開けてくれた。

「……ありがとうございます」

「今日のところは、もう休むんだね。明日の朝には、子竜守専用の浴室に案内してあげるよ。こんな遅い時間まで働かされて、尻尾巻いて逃げて帰らなかっただけ……ウェンディは立派だよ」

 ジリオラはそう言って微笑み窓を閉めると、その手に持っていた灯りを吹き消していた。

「私の帰る場所は……もう、ないんです」

 ぽつりと口からこぼれた言葉は、思いのほか部屋の中に響いた。

 明日には生まれ育ったグレンジャー伯爵邸は、人手に渡り、父の行方も知れない。私が仕事もなく無職で居れば、弟リシャールが心配で学校から逃げてしまうかもしれない。

 私にはやっとのことで雇ってもらえたアレイスター竜騎士団の中で、しがみついてどうにかして生きて行くしかない。

「……今日は、もうおやすみ」

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