求職令嬢は恋愛禁止な竜騎士団に、子竜守メイドとして採用されました。
 ここ一年ほど悩みに悩んで仕上げたけれど、売ることになってしまった白いドレスを思い出して、私はうっかり涙がこぼれそうになった。

「お父様。私のことは、気になさらないでください」

 けれど、ここで一番辛いのは騙されてしまったお父様自身なのだということは私も理解していたので、笑顔で首を横に振った。

 これまでにも、父は何度も何度も多額のお金を失ってしまったことを謝ってくれた。

 信じていた人に騙されてしまったお父様だって、不本意な出来事だっただろう。

 既に出来上がっていて私の部屋に吊るされていたデビュー用の白いドレスを売られてしまって行く時には、父は悔しそうに涙していた事を知っていた。

「いいえ。お父様。それは、もう仕方ないことでしたわ。私には謝らないで。それに、借金が財産を売っただけで……どうにかグレンジャー伯爵の爵位を売るまでに至らず、良かったではないですか。これからは、家族皆で借金を返す生活になりますが、家族全員の命があっただけでも良かったのです。私は本当に……そう思っております」

 これは、心からの本当の気持ちだ。

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