求職令嬢は恋愛禁止な竜騎士団に、子竜守メイドとして採用されました。
 ジリオラさんは私が居る方向を不意に見たので、私は何事かと目を開いた。

「……あの?」

「そういえば、ウェンディ……あんた。まだ、竜を見たことがないだろう?」

 私はジリオラさんの言葉に頷いた。子竜守を始めてから、竜舎と騎士団にある食堂を往復する程度で、ろくろく外出すらしたことがない。

「はい……そうですね」

 アレイスター竜騎士団で働いてはいるものの、私は目にする竜はふくふくした丸みのある子竜たちで、彼らの親にあたる竜はまだ見たことがなかった。

「それに、次の食事まで時間があるし……ユーシス。ウェンディにあんたご自慢のルクレツィアでも、見せてあげなよ。今どうせ暇なんだろ? ここに居るってことは」

「えっ……けど。そんな……」

 最高責任者である団長の時間を、下っ端の私に使わせてしまうなんて抵抗がある。けど……竜は見てみたい。

「ああ……急ぎの仕事はないな。ウェンディ。竜が見たいか?」

「はいっ……!」

 彼の問いかけに嬉しそうに即答した私の様子が面白かったのか、団長は優しく微笑んだ。そういえば、ここに来てからというもの、団長が笑った姿をこの時に初めて見たかもしれない。

 私たちは竜の住むディルクージュ王国に住んでは居るけれど、竜を見ることが出来るのは彼らが空高く飛行している時だけ。

 だから、もし彼が自分の竜を見せてくれると言うのなら、是が非でも見たかった。

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