林高の紅一点
「なー、逸花、今日は塾ないか?」

下校のチャイムがなり、身支度を整え、いざ帰ろうとした私の席に、君島が現れる。

「えーと、何? 喧嘩でもしに行くの?」

今日は塾のない日だったが、用件によっては塾があるということに変える必要がありそうだ。

「いや、今日はこれだ!」

バーンと私の机に叩きつけられたのは……

「ゲームセンター、リニューアルオープン?」

一護商店街の一角にあるゲーセンの、リニューアルオープンを知らせるチラシだった。

「そうだ! これから天音と紫苑と行こうって話しててよ、逸花もどうだ?」

「……それなら」

特に断る理由もなく、私は放課後、彼らについてゲーセンに寄り道することにした。



「もう一回!」

「何回やっても同じだと思うぜ。俺は負けねぇ」

君島の余裕のある態度を前にすると、思わず叩きのめしたくなってしまう。

この感覚はまさに勉強時に感じる闘争心と似ていた。

まさか、私がゲーセンのホッケーにこんなにも夢中になる日が来るなんて、自分でも予想外だった。

「鬼頭さんって意外と負けず嫌いなんだね」

私たちの戦いを見守る三春くんが、そう言う。

負けず嫌い、確かに私は負けず嫌いだ。  

でも、それは君島も同じようなものだ。

この男、手加減という言葉を知らないらしく、女の私相手でも容赦なくフルパワーで応戦してくる。

しかし、それは私にとって変に手を抜かれるよりよっぽど良かった。

「ねぇ、まだ続けるの?」

天音は先ほどクレーンゲームでとったお菓子を食べながら、呆れた目線をこちらに向けた。

「あ、両替してくる。あと一回、一回だけだから、待ってて」

私はそう言ってその場を離れると、札を崩すために両替機を探しに行った。

両替機、両替機、と。

なかなか見つからず店内をぐるっと一周する。

そして、ちょうど両替機を見つけたときだった。

「おい」

後ろから不意にポンと肩を叩かれる。

振り返ったその先にいたのは。

「……!」

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