短編集
西洋ウグイス
お昼休み。
お弁当を藤九郎から受け取り、一応のお礼。
「ありがとう。」
ウワサがあるのなら、これぐらいの距離感は伝われば良い方。
「少し、顔色が良くなったか。安心したよ。」
無意識なのか、藤九郎は自然と私の頬に指を滑らせて笑顔を見せた。
息詰まるような感覚。
掠るように触れた部分が熱を発するようで、一気に体温が上昇する。
治まっていた苛立ちが沸騰。
「触らないで!」
教室内の空気が一気に凍りついたのを感じた。
自分も冷静になる。
「ごめんなさい。」
視線を逸らし、お弁当を持って教室から走って逃げた。
お弁当を持って追いかけて来られては、意味がない。
藤九郎には『彼女』がいるのだから。
息を切らし、さ迷う様に歩き出す。
裏庭の木陰を探し、座り込んだ。
「はぁ~~。」
大きなため息。
「馬鹿ね。あんなの、周りに好きだと言っているようなものよ?」
声がして、顔を上げた。
「ふ。びっくりした顔も可愛いわね、あなた。」
菊水さんの笑顔と、優しい声が降り注ぐ。
上手く笑えない。涙が出そうになる。
「あはっ。綺麗な菊水さんに褒められて嬉しいかな。どうしてここに?」
彼女は手に持った包みを見せてから、私の隣に座った。
「一緒に食べましょうよ。恋バナでもしながらね。」
込み上げる感情に、涙が溢れて零れ落ちた。
拭おうとする手を菊水さんは止めて、ハンドタオルを私の顔に当てる。
「ありがとう。」
「高いわよ、それ。」
「おいくらですか?」
「そうね、百万円か……あなたの好きな人について聞かせてくれるくらい、価値はあると思うわね。」
ハンドタオルを受けとり、私は目に当てて笑う。
「案外、安いのね。」
「そうかしら。」
「だって、私はあなたの感情をタダで知ってしまったから。」
次々に繋がっていく言葉に、心は洗われるようだ。
溜まっていた黒い感情が流されていく。
涙も止まり、他愛無い話を続けながらお弁当を食べ終わる。
私は空になったお弁当箱を包みに入れて、息を吐き出した。
「菊水さん、聞いて欲しい。私の醜い感情を。」
藤九郎との噂なんて、自分には入ってこない。
仲良くしていた子たちは、突然現れた藤九郎に驚き、私が何も告げてはくれなかったと去って行った。
私には失った物が多すぎる。
溜まった言葉を吐き出すことも出来ず、不安と迷いも解決できずに一人で悩み……
「私は家を出たい。」
全てを菊水さんに語り終った後に出た結論がそれだった。
「う~ん。解決になるか分からないけれど、お昼休みも終わるし、今日は私の家に泊まりなさいよ。」
菊水さんは立ち上がって、私に手を差し伸べた。
その手を取ると、軽く引き上げられて、私は茫然としてしまう。
「ほらね。誰かに支えられるなら、少しは楽でしょう?私も楽になりたいの。三郷 (みさと)の選んだ子が、どんな人なのか知りたい。」