短編集
墓場鳥
藤九郎や家族と距離を置き、一栄の家で過ごす時間は私に余裕を生み出していく。
感情に駆られたり、苛立ちで冷静さを奪われたりすることも無く。
恋バナと言いながら、一栄は私を誘導するような会話を続けた。
自分の中に在る答えを導き出すような、そんな感覚。
「で。あなたは、どうしたいの?」
家を出ることが出来るとしても、卒業後。
「分からない。」
「風間くんの事、好きなんだよね。あなたが一番、気にしていることは何? 」
一番気にしている事。
藤九郎を好きだからこそ。
「好きだと言ってくれた気持ちは、私自身に対してなのか。おじ様の幼い頃からの教育の賜物なのか。」
「彼は何て言っていたの?」
私は口を閉ざして、藤九郎の言葉を思い巡らした。
『俺は決して、周りに感化されたわけじゃない。俺の意志で、ここにいる』
最初から藤九郎には、私の不安が分かっていたのかもしれない。
「自分の意思で、どんな方法でもかまわないから私に近づくと。そして自分の命を懸けるから、傍に居ていいかと問われた。」
彼の必死な言葉が、私には途切れた記憶としてしか残っていない。
認めるわけにはいかなかった。
会っていない期間が、どれほど経っていたのか。
私にとって彼は幼馴染、そして小さな初恋……
その綺麗な思い出を穢したのは大人だった。
渦巻く醜い感情。
両親の庇護のもと、信頼を寄せて安堵していたはずなのに。
嫌悪に変わる。
何が悪いのか何て、私は知りたくないし考えたくもない。
由緒?歴史?そんなの、私にとってはどうでもいい事。
「七帆、自分の想いを大切にして。周りが気になるとしても、あなたの将来はあなた自身が決めるんだから。」
私の想い。気持ち。感情。願い。望み。
藤九郎の言葉が胸を熱くする。
信じてみよう。
……そう、思ったのに。
「あいつは、俺のだ!“昔から決まっていた事”を、最近になって現れたお前が変えられない。あきらめろ!」
一栄と学校に到着して、周りから騒ぎを聞いて現場に到着してみれば。
越水くんに対して、藤九郎が叫んだ言葉が耳に入った。
『昔から決まっていた事』
変えられない未来。
そこにある私の想いは、藤九郎と同じではないのかもしれない。
藤九郎と越水くんが、私の方に目を向けた。
「勝手な事、言わないで。私は変えてみせる。その為なら未来も、自分の心や想いも。全てが無駄になってしまったと思うくらいなら。」
捨てる。
抗ってみたい。
「七帆!」
睨んだ私に、藤九郎が名前を叫んで必死な表情で迫る。
縮まる距離を広げようと、彼に背を向けて走り出す。
人波をかき分け、手荷物や一栄を残して、私は必死に逃げた。
だけど逃げ切れるはずもない。
校舎の端。
壁の行き止まりに阻まれ、手首をつかまれて、力強く引き戻される。
「いや、離して!」
抵抗して睨みつけると、やはり追いかけてきたのは藤九郎だった。
分かっていた。
予測していた。だけど。