短編集
両方で~線を消して~
熱にうなされながら…夢をみているように…昔を思い出す。
幼稚園…楽しい思い出
「コトリ、一緒に遊ぼう♪」
「ツバキちゃんも!」
「コトワ、僕と同じ物が好きだよね!」
「うん!同じが好き!」
「ふふ。二人は、うさぎさんのみみだ!」
「うさぎのみみは二つだよ!」
「僕たちも二つ、同じだよ!」「あはは!同じ!!」
「私は、同じ二つが好き♪」
「僕も好き!!」
「ツバキちゃんも好き!」
「きゃはは!」
小学生のある時、コトワが俺に言った。
「…うざい。」
本気じゃない…よね?
今は、そんなに強くない口調だけど…この時は、はっきり分かる拒絶だった。
同じじゃなくなった…当たり前なのかな?
当然なのかな…兄ちゃん…
そして変化は、ここにも…
「いい?私には近づかないで!」
「…んでだよ!」
「考えなくていい。簡単でしょう?」
乙姫は、俺達を…俺を突き放す。
分からない環境の変化に、納得も出来ず…時は過ぎていく…俺を残して。
「待てよ!俺は……」
目が覚めた俺の前に、兄貴と乙姫…
「大丈夫か?」
「おばさんに、何か頼む?」
二人が一緒に…俺のそばにいる。
二人…付き合っているんだ、当たり前か…
「出て行って。大丈夫だから…」
布団をかぶり、兄貴達に背を向けた。
兄貴の優しい手が、俺の頭を撫でる。
「安心したよ。」
悔しさと切なさと…入り混じる感情…
だるさの残る中、学校へ向かう。
俺を取り巻く女の子たちに尋ねた。
「ね、俺に彼女が出来たら…イジメるの?」
俺の質問に、全員が答えない。
そして…「出来たの?」
その質問で、事態の悪化を見た。
兄貴が避けたい事…乙姫が経験したこと…
「黙れよ!!兄貴の彼女も、幼なじみの乙姫も…傷つけたら許さない!!」
自分の幼さに、嫌気がする。
正しい事を言った様で、実は八つ当たり…こんな自分…
うさぎの片方の耳にはふさわしくない。
…線を引かれて当然だ。
乙姫が避けない限り、俺が近づいて…傷つける。
悔しい…
教室に入り、自分の席で眠る。
今は、何も考えたくない…熱は下がった。
それでも、だるさは俺を許さない。
動けない…動きたくない。考えない…考えたくない。
傷つけたくない…傷つけてきた…
「トワ、大丈夫なのか?」
優しい声が、上から聞こえる。
「大丈夫…そっと、しておいて…」
こんな時が、兄貴にもあったはずだ…それなのに、無神経で…
いつもベッタリ…うざいよね。
乙姫も、兄貴を選ぶよ。