短編集

エピローグ


自分の家なのに、落ち着かないのは何故だろうか。
見慣れた家具が減ったから?
それとも新しく増えた家具の匂いのせいかな。

「お嬢様。冷めてしまいますので、お早めに……」

執事プレイだろうか。
心地よい声も遠退くのは、現実逃避かな。

「ふふふ。イタダキマス。」

棒読みで、藤九郎が作った豪華な食事のメインの肉にフォークをブスリ。

「お嬢様。食事の後、少しの運動はいかがですか?」

口に運んだ肉を、噛んでいた歯の動きが止まる。
目を逸らすことが出来ない程の、熱視線。
口内の肉を呑み込み、視線はそのままで答える。

「遠慮いたします。」

何故か丁寧な言葉。
そんな私に、彼は感情の読めない微笑みを返す。

母方の祖父の遺言。
法的な事は分からないけれど、別宅で両親は暮らし、おじ様が執事として仕える。
そして私は、この家で藤九郎と……

『ずっと七帆の事が好きだった。どんな方法でもかまわない。お前に近づけるなら』

それが嘘じゃないなら、それが全て。
私には難しい事は分からないから。

「ずっと傍に居てもいいかな?」

いつもと変わらない口調に、私は思わず笑みを返す。

「私は籠の中の鳥。藤九郎、もっと甘く囁いて。優しくしてくれるなら。」

私も、鳴けるかもしれない…………

小夜啼鳥(サヨナキドリ)
ナイチンゲール
それは鳴き声の美しい鳥





End
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