短編集

工程


廊下。
大きな荷物を持つ女の子を見つけ、声をかける。

「大丈夫か?」

「…あぁ、加菅君。大丈…夫…だけど。」

クラスの委員長 野々瀬 朱理(ののせ しゅり)だった。
重そうなのに、無理した笑顔…。

紐を無理やり持つ形で、取り上げる。

「無理するな!」ニッ…と、笑ってみせる。
野々瀬は、戸惑いながらお礼を言う。

「あ、ありがとう…。」

「で、どこに持って行くんだ?…授業のじゃないな。」

「えぇ…。生徒会室に…ね。」と、ため息。

…?

「野々瀬、生徒会じゃないだろ?」

それに、生徒会長…同じ一年の…悪魔の彼氏?

「…ちょっと…ね。」

言いにくそうに、真っ直ぐ…前を見ている。
背筋が伸び、真っ直ぐな眼…。

眼鏡がなければ、…あれ?…綺麗な顔??

「…何?」

「…いや、ドア開けて。」

校舎の端、生徒会室に到着。
野々瀬は、ノックなしに…開けた。

「…いない…か。」

小さい声。
…?

「どこに置く?」

「…その辺でいいわ。メモを残すから…。っ!!きゃ…」

応接セットのソファに、転がった。

「…大丈夫…か…わっ!!」

…床に、水…?
野々瀬も、それにすべったのか…。

「痛…くない?」

柔らかい、野々瀬の身体…に、自分が乗っている。

「悪ぃ…!!」

「…いいわ。大丈夫よ…。」

いい匂いがする…。
眼鏡がズレ、綺麗な瞳…大きい。

【ドキッ…】
やっぱり…思ったとおり、綺麗な顔だ。

「…何、してるの?」

【ドキッ!!】
男の声に、別の意味で心臓が早くなる。

「いや、ちょっと…スベッて…」と、慌てて野々瀬の上から退く。

…あぁ、悪魔の彼氏。
生徒会長の海乾 蒼(みかわ あお)。

…奴は、俺を睨んで「用のない方は、出てください。…野々瀨、お前は…残れよ?」
偉そうに…その態度に、野々瀬はため息。

で、「嫌よ。次の授業に遅れるもの。」と乱れた髪を直した。
その後、手際よく雑巾を持ってきて…水を拭く。

「…さ、教室に戻るわよ?」

慣れた様子に、違和感…。

「…あぁ。」

生徒会長は、断った野々瀬を見ることなく…俺を無視し、作業をしていた。
二人は、仲…良いのか…悪いのか?

「…ごめんなさい。蒼は…」

野々瀨は、何故か俺に謝り…言葉の途中で、口を閉ざした。

「…いや、いい。気にしない…。俺こそ、上に乗って…重かっただろ?ごめんな…」

謝る俺に、優しく微笑む。
可愛いな…。


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