短編集
作るのは…
【バシッ】
廊下に響く音。
ざわめきから、一気に静寂を呼んだ。
頬を叩かれたのは、奇利だった…。
叩いたのは、俺の知らない女。…先輩だろうか?
「あんた、どういうつもり?!人の男…お金で、なんでもするのね!知ってるのよ?前いたところで…っ…」
怒鳴る先輩が、口を閉ざしたのは…過去を口にしたのを、奇利が睨んだから。
「とにかく!あいつに今後、近づかないでよね!!」
捨て台詞に、走り去る彼女…。
残された奇利を、遠巻きにヒソヒソ話。
近づくのは、悪魔と女神。
「バカね。どうして避けないの?」と、言った後…悪魔は周りを睨む。
眼を逸らし、外野が散っていく。
「ほら、ハンカチ…。口が切れてる…よ。」
泣きそうな顔で、秋が奇利を気遣う。
友達だな…
「……。」
無言で、奇利は秋の手当てを受け…呆然としている。
俺は、女性のことに口出しすべきでないと…様子を見守るだけ。
「浩。暇なら、お・い・で♪」と、恵理夏にいらっしゃ~い…と…誘われる。
俺がいるべき状況を、恵理夏が知ってるんだ。
「…悪魔が呼んでる。」と、ふざけながら…。
何かが、あったのを知る。
「奇利…?」
「…男は、変な…プライド…捨てればいい。」
奇利の、涙と…この言葉の意味を知るのは…俺でよかったのだろうか?
俺が奇利に近づいた後…恵理夏が、秋を連れ…距離を取った。
気づかなかった…俺の知らない2人の会話…
「コスモス…。引け。…良い女は、それが出来ないと…な」
「…うん。」
秋の、俺を見つめる…悲しい顔…
特に、何かを話したわけじゃない。
ただ、泣きもせず…奇利は頬を冷やし、窓の外を見つめた。
奇利とあの先輩の会話…
『人の男…お金で、なんでもするのね』
『前いたところで…』を思い出した。
俺も窓にもたれ、外を見る。
「…プライド…か…」
男には、変なプライド…確かにある…な。
秋に対する態度も…それかもしれない。
「捨てて…」