短編集

授業は、上の空…前の方の席で、真面目な兄貴の姿。
俺に邪魔されながらも、いい成績を保つ。

俺の視線に、後ろを見た兄貴…思わず、視線を逸らしてしまった。
不自然だ…兄貴は、疑問に思うかな?機嫌を悪くして、問いただすだろうか…

「おい、顔かせよ!」

授業中なのに、真面目な兄貴が俺の耳を掴んで引っ張る。

「痛い!いててて…痛いって!!」

耳を掴んだ手を、必死で退けようと抵抗。
しかし手は、力がゆるむことはない。

「先生。こいつ、頭がおかしいので連れて行きます!」

「…あぁ、次の授業には帰れよ。喧嘩は、出来れば家で頼む…」

「先生、助けてよ!そこは…」

「行け、俺は知らん!」

そんなやり取りを、皆が笑う。
笑い事じゃ、ないんですけど??

教室を出て、耳から手が離れ…
今度は手首を掴まれ、引かれた。

「来い、話をしよう。俺が悪かった…謝る。」

え?兄貴が謝る??

「何でだよ、謝るのは俺だろ?」

歩く速度に合わせて、ついて行きながら…
見えない兄貴の表情を想像した。

振り返った兄貴が、予想と反して悲しそうな表情…
てっきり、怒っているのだと…思った。

「兄貴…?」

「それ、止めないか?」

それ…?
何を言っているのか、理解できず言葉が出ない。

「覚えているか?線を引いたのは、お前なんだよ。」

線を引いた?俺が??

「兄貴…確かに、先に生まれた。けど、俺達は双子だ…同じ…だろ?」

オナジ…

「…いつからだった?俺が、兄貴って呼ぶようになったの…何で、呼ぶようになった…?」

思い出せない。

「小学生の時だよ。周りに兄がいる友達の“兄貴”って呼び方を気に入ったお前が、真似をしたんだ。」

「…あ…」

その初めて呼んだ日…兄貴…いや、コトリは俺に…うざいと言った。
線を引いたのは、俺だったんだ…

「思い出したのか。俺は同じじゃない事を増やした…大きくなって、同じじゃないのが当然だと理解した。それでも…コトワの中で、兄貴ではなくコトリとしていたい。」

「…ごめんね。俺、傷つけていたのに…コトリ、許してくれる?」

「コトワ…ありがとう。俺…嘘を吐いた。彼女はいない…」

「え?乙姫は??」

「ふふふ…好きだけど?」

ライバル…?

「あ…その…俺も、乙姫が…その、好きだ!!」

「知ってる♪俺の好きは、幼なじみとしてだけどねぇ~。くすくすくす…ふふ。くくっ…コトワ、仲直りをしようよ。」

企んだ眼…俺に向けた表情は、仲直りという言葉が似合わない…
そんな気がする。


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