短編集
子烏の片鱗
烏
それは、急な転校生が運んだウワサ……
自分の家系に臨む結末を、周りは知っていたんだ。
俺の結末……彼女が、俺のすべてを奪う。最後の烏。
手を出すなんて、考えもしなかった。その行為さえ理解せずに、ただ望んだのは愛情…………
烏よ、山の古巣に何故、戻る?それは、本当に仇なのか?
ニシの空、沈む太陽……それは明日への軌跡。ヒガシから上る太陽……それは、希望のはずなんだ。
俺は、ずっと……そう信じてきた。
夕暮れに鳴く烏。
この村は烏を崇める神社がある。祀り、怒りを鎮めるのだと……幼心に疑問を抱いたが、大人は口を重く閉ざし、答えてはくれなかった。
東 白鷺(あずま しらぎ)
俺の人生の終わりを告げるカラスを知ったのは、高校2年……西嶌 烏立(にししま うりゅう)が転校してきた日。
ざわめく教室に、集中する視線。彼女と俺を交互に見つめるクラスの反応に、俺は、ただ戸惑うばかりだった。
耳に入った言葉が、記憶に刻まれる。
『烏……仇と御守が災いを招く……』
自己紹介は小さな声。
教室は静まる。その声を聞き取ろうと。
しわがれてはいないが、独特な声色。寒気を感じるような冷たさを印象に残す。
彼女の制服は、烏のように真っ黒。襟の部分に、目を引く黄色の線。リボンもなく飾り気のない、この学校の指定ではない制服が、彼女の存在を一層際立たせた。
HRが終わり、担任の先生は教室から、逃げるように出て行った。
増えた席……彼女の居場所に近づく者はいない。ただ遠巻きに、小さな会話が小さな集団で、同じ話題。
俺は自分の席を立ち、彼女に近づいた。
「はじめまして、俺……」
「死ぬわよ?」
自己紹介の途中、小さな声なのに耳に入った言葉。
教室は一瞬、静まり返る。
青ざめるクラスメイトの数人が後退り、それに連なるように……叫び声と共に教室から、全員が出て行った。
状況を理解できない俺を、彼女は静観した視線で、ため息交じりに答える。
「私は烏。私に関わると、すべてを失うわよ。」
「……御守を持っているの?」
彼女は視線を逸らし、俺の質問に答えなかった。
どうすればいいのか立ち尽くしていると……
「白鷺、近づくな!来いよ。知りたい事は、俺が教えてやるから。」
声のする方に目を向ければ、教室の入り口に、面倒臭そうな表情の幼馴染。
同じ血縁の北巣 愛鷹 (きたす あしたか)。
その後ろに女子生徒が数人。きっと、この状況を伝えに行ったのだろう。
「西嶌、ごめん。また話をしよう?」
視線を戻して話しかけたが、目が合うことも、返事もなかった。
どう接していいのか迷いながら、俺は、愛鷹の方へ小走り。
俺が近づいたのを見て、愛鷹は後姿。