短編集

「付いて来いよ!」

愛鷹は速めに歩き、適当な場所を探しているようだった。

「愛鷹。俺は、彼女に近づいてはいけないのか?」

返事は無く、空いた教室を見つけて入る。

会話を聞かれると不味いのかな?
愛鷹は、教室の奥に足を進め、窓際にある机に座った。

「……ちっ、片鱗が俺らの代に現れるなんてな。しかも、俺か……お前の、どちらか。」

片鱗?

「白鷺。お前は、どこまで“烏”を知っている?」

どこまで?
不思議な顔をした俺に、愛鷹は笑う。

「くっ……くくっ。はっ!笑えねぇ。マジかよ?本家は、お家を手放すのに慣れちまったのか?冗談じゃ、ねぇ!たかが女一人に、何代もの不運。狂った男共の末裔……」

何を言っているのか、全く分からない。
ただ、自分と血族の衰退は知っている。それは、時代がもたらしたとばかり……

不運を招いたのは“烏”?

「全く知らないんじゃ、話にならねぇ。話が長すぎて、付いて来れねぇ~ぜ?」

何も理解できていない俺の様子に、どうするのか選択を促す。

「それでも、聴きたい!」

俺の願いに対して、愛鷹は、ため息。

「白鷺、俺達の名前には鳥の名前が、必ず入っている。それが何故なのか、知っているか?」

質問が増えていく。

「……風習だからだと聞いた。」

「そうだな。白鷺、気付いたか?血族に“西”は、無かったんじゃない……そばに居なかっただけなんだ。古巣に、帰って来たんだよ。災いと共に……」

西嶌烏立。ニシにカラス。
俺の名字が“東”。愛鷹は“北”巣。……もう一人の幼なじみで血縁“南”嶋 鷲実 (なしま すみ)。
東西南北。血族。

「愛鷹。西嶌は、同じ血族なんだよね。何故、災いを招く必要が?」

この地から離れ、それでも同じ血を流す……同じ家系が何故……

「祭りが近いな。白鷺、他の土地では神事に述べられるのは祝詞なんだ。しかし、この土地は忌詞。不吉な預言。幼い時から何度も耳にし、その度に俺は悪夢を見た。」


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