短編集
からす
『烏よ なぜ啼くのか 烏は山に 御守七つと 子があるからよ 可愛 我が子を思い 烏は啼くの 可愛 我が子が 可哀相だと 啼くんだよ 山の古巣へ 行って見て御覧 仇の眼をした 七つの烏だよ』
「からすよ、何故……泣く?泣かないで。俺は、すべてを喪っても君を選ぶ。一族の言う事など、何を気にするだろうか。君は、俺を愛しているのか?俺は、こんなにも愛しているのに……」
俺が見ているのは、黒紫色の綺麗な髪の女性。
美しさと麗しさ……心騒ぐ人。
同じ言葉が幾重にも男の声で、繰り返す。
『何故、泣くのか』と。
烏は、一族から奪っていく。
名声と権力……それを失った形だけの本家。
健康と知性……それを失った南嶋家。
土地と財貨……それを失った北巣家。
最後は……すべてを失う……
俺が彼女を望むなら。
「古巣に還るしかなかった。ここに」
涙を零す烏立の姿を最後に、夢から覚める。
…………
これが、怯えてきた夢の全貌?
嘘だ。呆気なく、自分の身に何が起きるのか危機感なんてない。
ただ……彼らのように、烏立を望むのだろうか。
甘いようで、痺れるような息苦しさ。胸に手を置き、身を抱き寄せる。
それは、過去……怯えたのとは違う感情。
「ははっ。狂っているのは、お前だったのか……」
部屋の入口に立ち、複雑な笑みの愛鷹が俺を見下ろす。
「愛鷹……?」
“オマエだった”のか?
「忘れたのか?俺との会話。見た夢を……」
昨日の会話を忘れたわけじゃない。
『俺か、お前の……どちらか。たかが女一人に、何代もの不運。狂った男共の末裔』俺達は片鱗。「愛鷹も昨日、夢をみたのか?」
今、この会話の意味が理解できず、曖昧さに寒気がする。
「ふっ。それを聞いて、どうする?……俺には、関係ねぇ。狂わない。憎しみしか宿さず、同じ憎しみで染まった者にしか欲情しない。」
同じ、憎しみ?
「愛鷹、彼女は……」
言葉を途中で、口を閉ざした。知られたくない。
彼女も、この状況を恨んでいるんだ。
愛鷹が想いを寄せるなんて……ユルセナイ……
「白鷺、どうした?」
っ!
……今、俺は何を考えた?
「おい、大丈夫か?しっかりしろ!顔色が悪い……誰か、呼ぶか?」
愛鷹の優しさが胸に刺さる。
今までに宿したことのない感情が、俺に芽生えた。
それは、醜くも……甘く満ち足り、もっと欲しいと願う独占欲。
「大丈夫。それより……愛鷹、今日は何の用?」
年々、親類の集まりが少なくなっていく理由と、愛鷹の寄り付かなくなった理由を知った今。
何故、ここに来たのか。気になるのは、当然だろう。
愛鷹は、視線を逸らして言葉を探す。
「着替えて来いよ。俺だって、こんな朝早くに呼ばれたんだ。……理由を知りたいね。」
着替え終え、父の前に愛鷹と正座。
「白鷺、“悪夢”を見たのか?」
父の視線は、いつもと同じ。
冷たくて真っ直ぐに見つめる。
「俺は、過去の惨劇を見ました。それでも……昔、震えるほど恐怖に怯えた悪夢と、同じだとは思えません。」
俺の返事に、父は戸惑いを示す。
「おじさん、“当たり”だね。狂っているよ。」
愛鷹の失笑に、父は目を閉じ、ため息を吐いた。
「愛鷹、お前は……見たのか?」
「からすよ、何故……泣く?泣かないで。俺は、すべてを喪っても君を選ぶ。一族の言う事など、何を気にするだろうか。君は、俺を愛しているのか?俺は、こんなにも愛しているのに……」
俺が見ているのは、黒紫色の綺麗な髪の女性。
美しさと麗しさ……心騒ぐ人。
同じ言葉が幾重にも男の声で、繰り返す。
『何故、泣くのか』と。
烏は、一族から奪っていく。
名声と権力……それを失った形だけの本家。
健康と知性……それを失った南嶋家。
土地と財貨……それを失った北巣家。
最後は……すべてを失う……
俺が彼女を望むなら。
「古巣に還るしかなかった。ここに」
涙を零す烏立の姿を最後に、夢から覚める。
…………
これが、怯えてきた夢の全貌?
嘘だ。呆気なく、自分の身に何が起きるのか危機感なんてない。
ただ……彼らのように、烏立を望むのだろうか。
甘いようで、痺れるような息苦しさ。胸に手を置き、身を抱き寄せる。
それは、過去……怯えたのとは違う感情。
「ははっ。狂っているのは、お前だったのか……」
部屋の入口に立ち、複雑な笑みの愛鷹が俺を見下ろす。
「愛鷹……?」
“オマエだった”のか?
「忘れたのか?俺との会話。見た夢を……」
昨日の会話を忘れたわけじゃない。
『俺か、お前の……どちらか。たかが女一人に、何代もの不運。狂った男共の末裔』俺達は片鱗。「愛鷹も昨日、夢をみたのか?」
今、この会話の意味が理解できず、曖昧さに寒気がする。
「ふっ。それを聞いて、どうする?……俺には、関係ねぇ。狂わない。憎しみしか宿さず、同じ憎しみで染まった者にしか欲情しない。」
同じ、憎しみ?
「愛鷹、彼女は……」
言葉を途中で、口を閉ざした。知られたくない。
彼女も、この状況を恨んでいるんだ。
愛鷹が想いを寄せるなんて……ユルセナイ……
「白鷺、どうした?」
っ!
……今、俺は何を考えた?
「おい、大丈夫か?しっかりしろ!顔色が悪い……誰か、呼ぶか?」
愛鷹の優しさが胸に刺さる。
今までに宿したことのない感情が、俺に芽生えた。
それは、醜くも……甘く満ち足り、もっと欲しいと願う独占欲。
「大丈夫。それより……愛鷹、今日は何の用?」
年々、親類の集まりが少なくなっていく理由と、愛鷹の寄り付かなくなった理由を知った今。
何故、ここに来たのか。気になるのは、当然だろう。
愛鷹は、視線を逸らして言葉を探す。
「着替えて来いよ。俺だって、こんな朝早くに呼ばれたんだ。……理由を知りたいね。」
着替え終え、父の前に愛鷹と正座。
「白鷺、“悪夢”を見たのか?」
父の視線は、いつもと同じ。
冷たくて真っ直ぐに見つめる。
「俺は、過去の惨劇を見ました。それでも……昔、震えるほど恐怖に怯えた悪夢と、同じだとは思えません。」
俺の返事に、父は戸惑いを示す。
「おじさん、“当たり”だね。狂っているよ。」
愛鷹の失笑に、父は目を閉じ、ため息を吐いた。
「愛鷹、お前は……見たのか?」