短編集
乙姫は、そっと目を開けて驚いた顔で後ろに下がる。
近くにあった俺の顔に、慌てて…挙動不審。
「ね、乙姫…可愛いね♪」
ニッコリ、笑って鏡で見せる。
乙姫の頭には、ウサギの耳…
「なぁ??」
更に慌てて、それを取り外す。
「何、こんな冗談…コトワ、おかしくなったの??」
何だろう?
さっきまでの興奮が、冷静になったわけでもないのに…
「コトワ?あの…眼が怖いんだけど??」
「怖い?俺は、怒っていないよ…冷静じゃないかもしれないけど。」
作戦…なんだっけ…忘れた。
頭が働かない…体が自然に動く。
じりじりと、乙姫に近づく。
「あの、用事が済んだのなら帰って?」
「乙姫、ね…もう一回…目を閉じて?」
「どうしてかな?もう、手には何も持っていないよね??」
乙姫は逃げるように、後ろに下がり続け壁で止まる。
「…分からない?」
「分からない!」
即答に、何がおかしいのか笑いが出てしまう。
「ふふ…」
「へへ?」
それに、引きつった笑顔を返す乙姫。
俺は距離を縮め、追い詰めた。
「乙姫、ね…目を閉じてよ。」
「嫌だ。学校で、話しかけても良いよ!ごめんね、わがまま言ったね…嫌な思いをしたよね!」
「黙って…」
唇に、人差し指を当てる。
柔らかく、温もりを伝える…
「ね、ここに…触れても良いかな?」
首を振って、俺の指から逃れた。
「…触れながら、触れても良いか?いいわけないでしょ!!」
睨んだ目には、少し涙が…
普段の俺なら、絶対に躊躇した。
「触れるのは、指じゃない…ここだよ。」
重ねたのは、唇…
初めてなのに、味わいたいと願った。
「…んっ…」
唇を固く閉ざれ、それでも何度も口づける。
愛しい…
「乙姫…好き。俺、守るから…秘密にする…ダメかな?俺、乙姫を好きでも良い?」