短編集

片思いのまま


中学時代に、彼女が誰かと付き合うことはなかった。

修二とは、仲が良かったのに…
高校が違えば、話す機会もなくなったようだ。

修二は、相変わらず不良。
中学とは違い、塾なんかには行かない。
喧嘩もするし、タバコも周りを気にしない。

彼女も出来て、普通の生活…
俺だけが、時間が止まったような空間…


「付き合いだした彼女は、どうなんだ?」

「別に、普通…いつ、別れても良い。ケンカに巻き込まれても、気にしない…」

土曜の夜、店で酒を飲んで集う。
明らかに、未成年の集団…
タバコの匂いが充満し、まどろむように身を寄せて時間を過ごす。

ケンカは、同じ高校に留まらない…


「はぁ?元木 竜佳に女!?」

元木 竜佳(もとき りゅうか)…同じ高校の一匹狼。
ケンカも強いと聞いた。

「しかも、相手は勝田 睦(かつだ むつ)?!」

不良なのに…田舎で、便が無く…
交通機関も少ない事情に、高校へと向かう駅の朝7:10。

勝田 睦を知らないヤツは、いない。
綺麗な彼女の武勇伝(←?)も耳にする。

そんな彼女を独占した元木に、数人がケンカを売る毎日…
以前と変わらないだろう。

それでも、守るべき存在に…“弱さ”を知る男達。

「俺、何発か腹に入れたぜ!」
「俺は、顔…」

その会話に、思い出す過去…募る苛立ち…。
ケンカの結果は、負け…それでも与えた傷に、自己満足。

護る者が弱い?
俺は、どうだろう…

弱さを思い知る。
誰も守れない…本気には、ならない。
巻き込むぐらいなら、関わらないことを願う…

この想いは、変わらない…誰にも、邪魔されない。
壊れない…片思い…それでいい。

弱い自分を守るので、精一杯…修二も、同じだろうか…


そんな中、元木を襲撃する計画を耳にした。
落ち着かない…しかし、自分がどうしたいのか分からない。

それでも、急かすように…この位置に、留まれない。

「行けよ。俺は、一緒には行かないぞ?行ったら、仲間を危険にする…単独行動なら、文句は言わない。後の始末もつけてやる。ただし、負けるのは許さねぇ!」

修二と別れ、走る。
駅から少し離れた場所…彼女を護り、一人で闘う姿。

弱い?どこが?
勝てる強さなんて、比じゃない…

傷つけるかもしれない存在に、想いを貫く…
俺には、出来ない事だ。

「その辺に、しとけ?ケンカなら、俺が相手をしてやる。」

元木に加勢して、数人を蹴散らす。
そんな俺にも、元木は彼女を護りながら睨む…警戒態勢。

思わず、笑みがもれる。

「ふ。気まぐれだ…そうだな。一つ、訊いても良いか?」

「…何だ?」

「お前は、傷つけるかもしれないのに…どうしてそばにいる?」

俺の質問に、元木は首を傾げた。

「好きだから、一緒にいたい。」

その答えを聞いて、俺は背を向けた。

『好きだから、一緒にいたい』…
一緒にいれば、傷つけるかもしれない。

その状況にありながら、まだ…一緒にいたいと願うのか?
好きだから…

俺は、好きだけど…巻き込みたくない。
弱い自分…その想いを抱えながら…

純情でヤンキー




end
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