短編集
唇が離れる。
固まったままの私を見た南斗は、ため息。
視線をドアのほうへ向けた。
ドアの隙間から、教室の様子を見ている。
私に視線を戻し、両耳から手を離した。
耳が、スースーする。
私は、何故か…南斗の目を見れなくて、視線を逸らして下を向いた。
男の人たちの声はしない。
出て行ったのかな??
「…櫂里。」
今までに聴いたことのないような、悲しそうな声。
おかしい。胸がザワザワする。
狭い空間…怖い!!
私は、我慢できずそこから飛び出した。
床に落ちていた鞄を拾って、走って教室を出る。
後ろは、振り返らなかった。
…見ることが、出来なかった…。
あんな、南斗…知らない!!
いつから一緒だった?確か、5歳…。近所の公園で、一緒に遊んだ。
それから、ずっと友達だ。仲は良い方だと思う。
息が切れ、道の端に座り込む。
嘘だ…
何が?この動悸?それとも、キス?
…体が覚えている温もり?匂い…南斗の?
涙が零れた。
何に対してか、理解の出来ない…涙。
「…櫂里?やっぱり、何やってるの??間抜け…あちゃ~。」
いつもは、間抜けてる♪と、からかう私の友達…
柊 流祈(ひいらぎ るき)。
さすがに、泣いている私には優しい。
無言で私を立たせ、スカートについた砂を払ってくれる。
そっと、抱きしめ…頭を撫でてくれた。
まるで、男の人が女性を扱うように…。
だから、みんなから王子なんて言われるのよ。
ふっ…と、笑みがこぼれた。
「あ、何かムカついた!」
と、いつもの意地悪な顔。
私の頬を軽く引っ張る。勘がいいのです…。
「今日は、許してやる。予想もつくし!」
え?さすがに、勘が良いといっても…分からないでしょ??
私の不思議そうな顔に、ハンドタオルをこすりつける。
「むぐっ…息が、出来ない…よ…」
あ…キスの時、息…どうしてたかな??
覚えてないや。
【かぁあ~~】
唇の感触が、今更…恥ずかしい!!
何も言わないで、うろたえる私にルキちゃんは…ため息。
「帰るよ?ここ、目立つし!」