短編集

「俺は……桃奈の一族が両親の結婚を反対した不良と変わらない。ただの好奇心なら俺は……お前の知らないことを、教えてやればいいのか?」

言い表せない不安に駆られ、桃奈との距離を詰めて乱暴に手首を掴む。
人の往来のある道路、壁際にまで迫って……

焦りと恐れ。
自分が傷つくことを恐れ、臆病にも嫌われることを望む。

「……痛い、止めて。」

そうだ、こんな俺なんか嫌えばいい。
離れてくれ、近づくな。
これ以上踏み込まれたら、俺が……抜け出せないから。

「万。あなたは今、自分が苦しい表情をしているのが分かる?あなたは何に傷ついて私から逃げようとしているのかしら。」

思考の混乱に、聞こえる声は穏やかで息が詰まるように感じた。

「一目惚れじゃない。ただ、君が言ったように母さんに重ねているんだ。……桃奈、君は何の用事で俺の家に向かう。俺は、そこに居合わせなければいけないのか?」

苦しい表情をしているのだという、今更の自覚。
さっき出会ったばかりの彼女に何を抱くのか。
俺にある認識で母との違いは、彼女の名前と……親族とはいえ他人。

「親族すべてが、あなたの家庭を否定しない。少なくとも父はあなたを認めている。覚えているかしら……万引きをして捕まったお友達の為に、あなたは警察署に向かった。仲間だと思われることも恐れずに。」

確かに覚えはある。
だけど俺では何も出来ずに結局、父に頼った。

「それが桃奈と、どう関係するんだ。」

関連など……

「父は私の……危ない身の守り方に終止符を打とうと、許嫁に万を選んだの。過去の伯母様と同様に、護る者が居れば大人しくなるだろうと。」

眼は真っ直ぐ、それに不満などないように確信に満ちている。

「マザコンの俺だぞ。母に重ねると……」

いや、十分に分かったはずだ。
それでも尚。

「……何故、そこまで俺に拘るんだ。」


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