短編集

「許嫁なんて御免よ。私は自分で相手を探す、誰の言いなりに等ならない。」

言っていることが矛盾しているのに、彼女は俺を睨んで必死に訴える。

「万。……一族が否定する元木の名が、私を救った。伯母様と同様に……私の気持ちは、誰かからの庇護に安堵したいだけなのかもしれない。不純な動機に、恋を錯覚させて……」

目に涙を浮かべ、それでも視線を逸らすことなく見つめ続ける彼女に偽りはない。

「俺が君を助けたのは、今日が初めてのはずだ。」

「あなたの知らない所で私は助けられたの。あなたに会いに来なければ知らなかった……不良の世界。今日のように取り囲まれ、逃げ場のない私を救ったのは一族が否定する元木の名。あなたの存在。」

桃奈の目に溢れた涙が零れ、頬を伝っていく。
それを気にすることなく、彼女は苦笑した。

「確かめたかったのかもしれない。偶然に通りかかったあなたが私を救い、それにすがろうとする私を止める為に……痛い目を見れば、こんな想いは消えるのだと。」

俺は捉えていた手を離し、零れていく涙を拭う。

「何度でも助けてやる。」

込み上げるのは愛しさ。
自分と同様の臆病な恋心。戸惑いと恐れは誰しも同じ……

そっと抱き寄せ、母とは違う彼女を味わう様に感覚を研ぎ澄ます。
温もりと匂い、柔らかさと降り積もっていく想い。

「桃奈、俺は不良と変わらない。父は母を護る為に不良との喧嘩が増えて、一族の評価も低い。」

「あなたは頭が良いのに不良なの?」

腕の中、見上げる彼女が不思議そうに問うのが可愛いと思えてしまう。
確かに外見は似ている。きっと血筋で否定できない程に近しい。

だけど明らかに母とは違う。
俺の初恋。

「そうだ、成績なんて関係ない悪……お前にも、こんなイケナイ事をしてしまう。桃奈、訊きたいんだけど……」

インテリ系ヤンキーはお嫌いですか?




END
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