短編集
野良犬の餌付け方~調教~
~遠くから~
「野良犬みたい」
その一言が、始まりだったのだろうか…
俺の前に現れたのは、不思議な女だった。
俺から言わせれば、お前の方が野良だ。
岸渡 大陽(きしわたり たいよう)は、東雲 巳羽(しののめ みわ)に振り回される。
慣れていくのが早いのか…その先も見えない…
この関係は、一体!?
「大陽、ほぉ~らエサだよ♪」
背の低い女が、俺の前で、お弁当箱を開けてサンドイッチを見せる。
それを無言で避けて、購買へと向かう。
奴は、追ってこない。
何がしたいんだろう…ここ、何日か続く行為…
意味を考えるが、理解できないので気にしない。
それを繰り返すにも、限度が来たようだ。
「大陽、巳羽ちゃんのお弁当をもらって来い!」
…誰だっけ、コイツ…
屋上で、コロッケパンを口に入れ…空を見上げ考える。
思い出せない…
ま、いいか。
「聴いてるのか!?」
うるさい奴だな…
俺は立ち上がり、パンを口に入れたまま…その場を離れる。
「あぁ~あ、機嫌を損ねたか。」
「ホント、自由だよなぁ~」
廊下を歩き、非常階段へのドアを開けた。
「うわぁ!ちょ、ここ…これから、良いところなんだから!邪魔、すんな!!」
…?
「嫌だ。俺、ここを通って下に行く。邪魔なのは、お前達だろ?」
抱き合った二人を押し退け、階段を下りる。
「大陽、覚えてろよ!!」
「…無理…」
怒鳴る奴に、振り返らず…返事を返す。
校内履きの靴で、外を歩く。
裏庭の大きな大木…
それに上り、くぼみに体を合わせて寝転がる。
葉と枝の隙間から見える光…陰と風と…
心地よいスペース。
「ふふ…くすすっ。ホント、野良犬みたい♪」
…いつの間にか、俺の上に軽い身が乗っている。
「何、してんだ?」
「ん?ふふ…木登り?」
…確かに、木の上…
「ね、私…あなたを飼いたいの…」
…?カイタイ…?
「俺は、物じゃない。重くないけど、退いて。普通、こんなこと…」
【ふにっ】
…??
寝ている俺の上に、被さり…柔らかい何かが当たった。
顔をスリスリ、俺の胸にすり寄せる。
髪が良い匂いを振りまいて、危険信号を察知する。
「離れろ!!」
「くすすっ。太陽の匂いがする…気持ちいい…」
重みが増し、密着が熱を呼ぶ。
焦りで頭を押し退けると、彼女が寝ている事に気づいた。
「何なんだ、コイツ…」
自分の身から退け、くぼみに寝かせる。
そのまま放置して木から下りた。
光に目をあげると、彼女を包むような光景。
…変な奴…
今日は、お気に入りの場所が手に入らない。
満腹だが、満足感のないお昼休み…教室へ戻る。
眠気に、伸びをしながら…
周りも気にせず、自分の席に着いた。
「東雲ぇ~?休みか?早退…誰か、知らないのか?」
授業は、問題なく進んでいく…
【ガラッ】
授業の残り時間…後、数分…
「お、東雲…体調不良か?」
教科書は、理解できない数式で俺を睡眠へと誘う…
深い深い…落ちていく…
「大陽くん!」
突然の高い声。
「…ん…」
目を開け、口元の冷たい何かを手首で拭い取る。
「起きた?ね、考えてくれた?返事は??」
…俺に顔を近づけ、質問攻め。
「誰だ、お前…」
「東雲 巳羽…ね、放課後…一緒に、帰ろう?」