短編集
喰喰‐ハミハミ‐
喰~躓きの一言~
片思い…
勇気がなく、そっと見守るだけの日々。
そんな日々に区切りを打ち…
想いが伝わったと思ったスタートは、後悔。
もっと、彼の事を知っていれば…
この想いは変わらないだろうけど、何かが違ったのかもしれない。
傷つけたのは私…許して、お願い…
小林 茶紗(こばやし さしゃ)が受けるのは、一人からの異なる二つの愛情……
何度か、名前を耳にした。
成績優秀の一覧が張り出され、上位にいる彼。
スポーツ大会や体育祭…部活に所属せず、運動神経抜群の活躍をする彼。
そして、女子の視線を奪う彼…彼を見つけるのは簡単だった。
ただ、それだけで…すべてを知れるはずもない。
なのに…想いは膨らむ。
そんな外側への想いは…彼を傷つけた…
罰掃除の裏庭…
ぐすんっ…忘れた事のない提出物。
よりによって、生徒指導の先生の授業で!!
ほうきを持って、ノロノロと歩く放課後。
小さな裏庭は、罰掃除の定番…
掃除は校内で一番、行き届いているのではないだろうか?
「好きな人がいるんだ。」
「どんな子なの?」
「俺のこと、見てくれる人…本当の俺を、きっと…」
荒木 希渉(あらき きしょう)君…
告白の最中に来てしまった。
私の気配に視線を向ける二人。
「ご、ごめんなさい!!あの、その…」
慌てる私の言葉を待たずに、相手の女の子は走り去った。
うわぁ~~ん!二人きりに、しないでぇ~~!?
「どこまで聞いたの?」
「はぁい!?」
パニックで、私の口は何を口走るのか…
彼を見れずに、意外な速さで動く口。
「あのその、私、も、好き…あわわ…その~…!好きじゃなくても、ね、付き合えば好きになったりとか、するか…も?」
……。
……。
静かな時間。
視線を、そっと彼に向けた。
まずい…忘れてもらおう。こんないい加減な事…
口を開こうとした私に、彼は微笑む。
【ドキッ】
「そうだね…試してみたいかな。」
…え?『試してみたい』って、言った??
「ね、俺のことを本当に好き?」
この状況に、頭がついていかない。
言葉も出ない…
「そうか…俺のこと知らないんだ。----」
『許さない』
最後の言葉は、そんな風に聞こえた。
目の前は真っ暗…頭は真っ白…
「いいぜ、付き合ってやる。条件を満たせばいい…」
何の話をしているの…?
「俺が好き?本当の俺…君の見ていた俺…」
私が見ていたって、知ってるの!?
顔は赤くなり、嫌な汗が流れる。
「君が告白したのは俺…君が見ていない俺は、好きでもない奴だよね?」
彼の目は鋭く、逸らすことが出来ない。
理解できない言葉が、耳に入ってくるけど…反応が出来ない。
何を言っているの?
怒っているのは分かる…
「ごめんなさい!忘れて欲しいの。私…あの…」
「嫌だよ。君が言ったんだ…好きでもない奴と付き合っても、そのうち好きになるかもしれないって。好きになればいい…俺じゃないオレを」
怖くて、一歩…足が後ろに下がる。
【グイッ】
彼は、速いスピードで私に近づき、手を引いた。
「逃がさない。“俺たち”の彼女…だろ?」
『俺じゃないオレ』
『俺たち』
…この言葉の意味を知るのは…