短編集

~グルグル~


「おはよぅ。茶紗…くふふ…ついに、告白したんだ?」

……「え?」

何で、知っているの??

待って、あれは…冗談…だよね?
だって、あの後…彼は、私に背を向けて帰って行ったんだよ?
私は何が起こったのか分からず、地面に座り込んで…
夕暮れを見て、一人で帰ったんだよ??付き合うって、違うよね?
しかもあれが告白?

「今日の朝一、告白した女の子に『彼女が出来た』って言ったらしいよ?私の耳に入ったから、確認したんだけど??」

小倉 湖未(おぐら こみ)…
私の友達…私の恋話を聞いてくれていた。

そんな彼女に、ウワサが先に聴こえたんだ。
少し、すねている…

「う…」
「う?」
「うわぁあぁ~~ん!」

湖未ちゃんに飛びついた。
泣きながら、全部を話す。

「…うぅ~~ん…意味が分からないね。」

パニック中の記憶を吐き出した私に、苦笑いの湖未ちゃん。

「でも、彼…茶紗のこと、好きなんじゃない?今は、どうか知らないけど…上手く言えないな。つまり、茶紗の知らない俺も、知って、きちんと好きになってくれって事じゃない?」

私を…好き?

「何で?私、好かれるような女じゃないよ??」

「茶紗が見ていたのを知っていたんだよね?その視線で、心が動いたんじゃないの?」

私の視線…そんなに、バレバレだった?!
グルグル…パニックに、考えがまとまらない。

「自信を持てば良いよ。茶紗は、小さくて可愛い♪ぐふふ…抱き心地も良いし?」

「どうせ、細くないもん…」

お菓子が大好き…ダイエットなんて出来ない。
デブではないにしても、少し…ぽっちゃり。背も低い…
それが可愛いなんて…基準がおかしい。

自信なんて持てない…
彼は怒っている…傷つけたんだ。

離れたところから、見ているだけ…それで満足だった。
彼のこと…知らない。私の想いは、現実を見ていない。

勝手に描いた空想の彼を見ていた…
それで、好き…なんて。許してくれない…

彼を好きな女の子達は、ウワサに嫉妬するだろう。
嫌がらせも当然あるよね…私なんか…

「ぐすっ…ふっ…うぅっ…」

「何、泣いているの?」

抱き寄せていた湖未ちゃんの声じゃない。
前に立っていたのは…

「荒木くん?」

「ふふ。希渉って呼んでよ。」

教室の隅にいた私たち。ウワサで興味津々の視線を受けながら、小さな声で話をしていた。
そこへ、気配なく彼が現れた。

本当は、気づかなかっただけだろう…
教室内は騒いでいたのかもしれない。

「お昼に、図書室に来て。一緒に食べよう?その時…紹介したい奴がいるんだ。」

泣いている私に微笑み…指で涙をぬぐう。

【ドク…ン】

始業のチャイムに、彼は背を向ける。

「待っているから…」

小さな声は、会話のトーンより低かった。
周りに聴こえないように言ったのかな…?

「よかったね。心配する必要ないよ!」

湖未ちゃんは、明るく笑う。
私は心に曇る何かが…そんな風に思うことを許さなかった。

紹介したい奴…
それが誰なのか、不安が襲う。

影から見てきた…みんなと仲良く、優しそうに話す彼…
けど、特別な仲の友達を知らない。

私の知らない人…

知らないことが怖い。
こんなことがあっても、彼への想いが変わったわけじゃない。
近づけた距離に、幸せが勝って…想いは別の感情を得ていく。

好き…
きっと戻れない…

彼との関係は終わりなのか、始まりなのか…


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