短編集
周りは、そう広めればいい。
今まで、白海は私の幼馴染。これからは、友達になる。
そして紅星は、ずっと友達。
線を引いた私に、片思いの白海。きっぱり振らずに、友達の枠に留めた?
実質、白海は幼馴染からの降格。名前から名字呼びにして、一線を引いた。
女の子たちの白海への想いは希望を失わず、私への不満も最小限。
もし、これが…皆の居ないところでの告白だったなら…
考えるのは止めよう。これ以上、頭を使うのは無理。
嫉妬と怒りと、妬みと恨み…感情の渦に呑まれるのは十分。
目が回り過ぎて、付いて行けない。
何度、私が泣いたとか…
紅星や白海には分からない。
幼馴染。小さい頃から一緒に居ただけ。
親しい友達…だよ……
浅黄は、何も言わない。何も訊かない。私も、何と言って良いのか分からない。
黙って時間を過ごし、癒されるような静かな時間を望んだ。
あの告白から、何かが変わることもない。
ただ、白海から岩根くんと呼ぶのが変わっただけ。
自分が言い出したことなのに、白海の悲しそうな笑みに心が痛む。
嫌な思いをしたのは私…?
帰り支度をしていると、白海がやってきた。
「中切、一緒に帰ろうぜ?友達は、一緒に帰ったりするよね。」
嫌味ではないのだろうけど、断り文句に先手。
「そうね。岩根くんが、傘を持っていれば一緒に帰るわ。」
さっき降り出した雨に、テンションが落ちながら外に視線を向けた。
「いいぜ、相合傘だな。」
白海の嬉しそうな声
視線を向けると、折りたたみの傘を探しているのか、カバンの中を覗き込んでいた。
ほっとする。
何も変わらない。このまま、時間が過ぎればいい…
下駄箱で靴を履きかえ、外に出る。
小雨が降り続ける。
土砂降りでもないけれど、雨音が響く。
同じ傘に2人…
小さな空間で、白海の肩が濡れているのが目に入り、熱くなる。
会話が途切れる度に、白海が話題を提供してくれた。
小さな気遣いと、私の反応に一喜一憂。
何故か漏れた私の笑みに、気づいて微笑む。
息の詰まるようなもどかしさ。
視線を逸らした私に、小さな声。
「まだ、ダメなのか?」
2人の足が止まり、少しの沈黙。
気が付けば家の前。
私は傘から飛び出して、玄関まで走る。
勢いよく振り向いて、白海にそっと手を振った。
一瞬の行為に、意味などないはず…
自分のしたことが恥ずかしくて、逃げるように玄関のドアを開けて入った。
戸惑う…お礼も言えず、『バイバイ』とか『またね』くらい言えればよかったのに。
手を振った自分が、どんな風に白海の目に映ったのか…
居た堪れなくなった……