短編集
櫂里の体は固まったまま。
自分のしたことが情けなく…ため息。
櫂里は、思考が停止しているのか動かない。
そういえば、あいつらは?
視線をドアのほうへ向け、ドアの隙間から教室の様子を見る。
いない…どれくらいの時間だったのかな?
櫂里に視線を戻し、両耳から手を離す。
櫂里に反応があった。
俺から視線を逸らし、下を向く。
やばい…何度か喧嘩をしたことはあるけど、こんな反応は初めてだ。
色々な不安が俺を襲う。
「…櫂里。」
名前を呼ぶが、反応も返事もない。
狭い空間…無言…。
勢いよく、櫂里はそこから飛び出した。
床に落ちていた鞄を拾って、走って教室を出ていく。
言葉が出なかった。
追いかけることも。足が動かない。
…頭が働かない…。
フラフラと、そこから出る。
近くの壁にもたれ、それに沿って座り込んだ。
「…はぁ~~。」
深いため息。
何のために、長い間我慢してたのか分からない。
この高校は、俺たちの関係を知らない奴の方が多い。
幼馴染…この言葉で、ブレーキのきく奴なんかいるだろうか?
【携帯のふざけた着信音】
……。
無視。
【再度、着信音】
着信拒否。
……。
「酷いよ!親友がかけてるのに!!」
うざい…
天郷 矢一(てんごう やいち)だ。
「親友?そんな方は、ここにはいませんよ。他を捜してください。」
冷たく、視線を逸らす。
「…何したの?」
【ギクッ】
情報が入るの、早いんじゃないか?
「さっき、ルキが保護したってメール来た。泣いてたって~?」
【ギクギク…】
「当ててやろうか?そうだな…キス…とか?」
【…グッ】
言葉が出ない。
まずい…
「何が…?」
出たのは、これ。
「キス!チュウ!接吻?」
……。
「うっ、うるさい!!俺は、何もしてないぞ?」
ごまかすように立ち上がり、荷物を拾う。
「…あれ、唇…リップが…」
【…ッ…】
口元に、手の甲を当て擦った。
「…嘘だけど?多分、あいつはつけてないと思うし…ふぅ~~ん。なるほどね…くすくす…」
弱みを握られた。
肩を落とし、うなだれる。
もう、死にたいぐらい…情けない。
こいつに、こんな奴に…弱みを“二つ”も握られた。
「櫂里に言ったら、楽しそうだな♪早く、付き合ってくれ?くくく…ラブラブのときに、爆弾を落としてやろっと!」
こいつ、電話のこと…根に持ってんな?
畜生!!
「それは置いといて。告るなら、早いほうがいいぞ?人気あるから。」
「あぁ…。」
キスをしてしまったし、幾らなんでも…好きでもないのにしたなんて思われるのはキツイ。
「あいつ、大丈夫だろうか?…こんな反応、初めてなんだけど…。あぁあ~~~!!畜生!!」
モヤモヤが、気持ち悪くて叫んだ。
「青春だね~~。早くラブラブになって?俺の爆弾をお楽しみに!ま、本当のことを教えてくれたらいいよ?」
悪魔…