短編集

「中切、俺の転校初日にあった事、覚えているか?」

クロワッサンの事かな。
何が言いたいのか分からず、首を傾げてしまった。

「新しい生活の始め、親しい人のいない不安な環境に現れた女の子。飾り気もなく、安心したんだ。けど、その行動に触れる度に、悲しくなった。」

冷たい態度もあったような…
悪かったと反省する。

「中切は、不器用だね。色々な感情に巻き込まれ…感受性の問題かな?敏感すぎる…痛いよ、君の距離が。」

痛い…
悲しいと思わせる線を引かないと、自分を守れない。

「素直になればいいと思うけどね?それが出来ないのが中切なのかと…俺は、失恋したんだ…」

私への好意が無くなったんだね。
自分が望んだ結果…

月川くんは、私の隣から距離をとる。
そっと方向を変えて、静かに居なくなった。

涙が零れる。
白海から、同じように好意がなくなったと言われるのを望んだ。
なのに、友達に留めたのが最善だと…

違う…怖かった。
人の想いは変化する。

見てきた…
白海や紅星を好きだった女の子達が、別の誰かを好きになっていくのを。

これから、他の人を好きになるかもしれない。
それは紅星も白海も私にも、あり得る事。

怖い…前に進めない。
進むぐらいなら、前も見ずに、自分から落とし穴に埋まった方が良い。

周りをうかがい、様子を見ながら…自分が傷つくのを最小限に。
逃げてきた…

白海を傷つけ、白海への想いを誤魔化して…何が言えるだろうか?


一日、白海のいない環境で考える。
答えなど出ない。

そんな足で、白海の家に向かった。
幼い頃、何度か来て以来…すっかり変化した部屋。

私の姿に、熱で火照った頬で驚いた顔の白海。

「…昨日の、お前の笑顔にやられたんだ。無意識だったかもしれないけど…手を振った清花に、傘を持つ力も抜けて…責任を取ってくれ!」

「白海、私と…淡い恋をしませんか?」




end
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