短編集
拘束の恋情
心占めるモノ
先生から話があると言うので、呼び出された図書室に入る。
そこは密室……
「鮫島先生、用があると聞いたのですが?」
俺は北村 雅之(きたむら まさゆき)小学6年、
まだまだ成長が始まったばかり。
背の高い女性の先生に見下ろされながら、質問を投げかけた。
「クスっ。可愛い顔ねぇ、イケナイ気分になるわ。」
先生は手を伸ばし、俺の頬に触れようとするので避けながら質問を繰り返す。
「先生、要件は何ですか?」
そこから逃げれば良いと思うだろう。
しかし、俺には情報を手に入れる目的があった。
推理物にハマった俺を、刺激する事件。
先生も、それを知って俺を呼び出したのだ。
だからと言って、情報と自分の何かを交換するほどバカじゃない。
「頭のいい子は好きだけど、融通の利かない子は嫌いよ?」
汚い大人に触れられるのは、嫌悪を覚える。
「情報源は、あなただけじゃない。“僕”は、これでも譲歩しているんですよ?」
俺の態度に、先生は舌で自分の唇を舐め、頬を紅葉させる。
「興奮するわ。焦らすと、後悔させちゃうわよ?」
自分でブラウスのボタンを外して胸元を広げ、スカートの裾をめくり太ももをさらけ出す。
「ね、触れて。刺激を頂戴……。あなたは、経験を得るだけ。何も減るわけじゃない。ねぇ、損は無いでしょう?」
俺の手を捕らえ、触るように促す。
「先生が快感を得たいだけですよね。“俺”には、そんな経験値いらない。」
彼女の手を払いのけた。
「あん、冷たい。ゾクゾクするぅ。いいわ、今日は許してあげる。情報が欲しいのよね?」
そうだと知っているくせに。俺の目的は、それだけだ。
冷たい視線で見る俺にニッコリ笑顔。
「キス、して?」
苛立ちの限度を超えた。
力で勝てるかもしれないけど、体格の差は不利な気がした。
逃げるのは、難しいかもしれない。
「先生、キスをする時は目を閉じるものでしょう?“僕”は、これでも恥ずかしいんだよ。」
得られない情報に、時間は無駄に出来ない。
刻一刻と、事件と証拠は過ぎて行く。
最短距離でいたい。
その位置は、誰にも渡したくないんだ。
期待した先生は目を閉じ、俺を待っている。そ
のまま放置して、図書室を静かに去った。
欲しかった情報は、深夜の教室に現れた不審者の事。
この私立のセキュリティを突破し、教室にいた何者か。
警備の見回りに、慌てる風でもなく、姿を消したらしい。
盗まれた物も、壊された物もない。目的は何だったのかさえ、分からない。
愉快犯の可能性?関係者の悪戯?七不思議?
理解できない謎に、答えを得たい。
その願望が、今の俺には年齢に相応しい。
女性の身体を見たり、触れたりすることを望まないとは言わない。
ただ、そこまで飢えているとか、駆り立てるような衝動があるとかじゃない。
露骨な先生に冷めているだけなのかもしれないけど。
今は、目の前の謎や不思議に想いが一杯なんだ。
不器用に、一途に生きていきたい……
恋に落ちても、それは変わらないと思っていた。