短編集
憎愛の砂城
憎愛の砂城
恋心は純粋であり、時に不純。
本当の気持ちに鈍感で、気付いた時は手遅れ。
自分が選んだ恋の相手を、憎むほどの情熱が駆り立てる。
砂の城のように崩れゆく、脆い想い。
憎しみと愛しさは表裏一体…
幼き日の純粋な気持ちも、稚拙なプライドに覆われ…埋もれて眠る。
呼び覚ましたのは、奪われた瞬間。
他の想いを受け入れ、自分で選んだ彼女がいるのに。
貪欲に染まって、駆り立てられる感情…
真実に気付き、自分の鈍感さを突き付けられ…憎しみに変わる愛しさ……
俺、純(じゅん)は小学生の少年サッカーで、未来有望だと褒められた。
レギュラー入りをクラスで自慢し、応援に来てくれると約束してくれる友達。
その中でも仲の良かった夏澄(かすみ)に、良い所を見せたかった。
試合当日、相手チームの数人とゴール前での接戦。油断した俺は足を痛め、サッカーの夢は途絶えた。
絶望と悔しさと、夏澄の視線に耐えられず…純粋な想いは埋もれていく。
病院での生活に、不安と焦りと情けなさ。
それを、見舞いに来た夏澄にぶつけた。
それでも毎日のように、やって来ては笑顔を見せる夏澄。
そんな愛情も見えない鈍感な恋心。
自分の感情の限界に、言ってはいけない一言を告げる。
「もう二度と来るな!」
退院時期と父親の海外転勤が重なり、夏澄と会わないまま海外へ。
数年後には、父親の知り合いが医師を紹介してくれて、足の手術。
あきらめていた夢を得、海外のサッカーチームで活躍する。
失ったものを手に入れ、埋もれた感情を掘り起こすこともせず…時は流れていく。
日本に戻ることが決まっても、サッカーの夢は続く。