短編集
船々恋々
はじめまして
はじめまして。
三浦 薫乃(みうら ゆきの)と申します。
この度、事務員の募集を見て面接を受けることになりました。
その職場は、なんと造船所でございます。
ドキドキで面接の日時を約束し、やって来ました。
ナビ通りに到着すると、中で働く人数の多さを実感できるような駐車場の広さ!
もちろん面接の時間は就業が開始されているため、広大な敷地に埋め尽くされた車に圧倒されて、なんとか駐車スペースを発見。
そこから歩いて正門に向かいます。
入り口には警備員が配備され、案内の先には小さな管理室。
仮の通行証を受けとり、大きな認証機械を通る。
そして道路の側面には海と大きな船。
まっすぐ伸びた道は、どこまで続いているのか。
私は一体、どこに行けばいいのかな?
「そこで待っていれば迎えの車が来るよ~。」
優しい警備員の方の声に、安堵と疑問。
は?車で迎えが来る?
車を駐車場に停めて、みんなは歩いて建物に向かうんだよね?
そんなに遠いのだろうか。
そんな驚きの面接からスタートした事務員の仕事。
慣れ始めた私は、通勤時に通行証を機械に通して、周りの人たちに挨拶をしながら事務所まで歩く。
「……~い!お~い、三浦っち。ここ、ここだよ!」
遠くから呼ぶ声を探すように周りを見渡すけれど、見当たらない。
そんな私の様子を見て、複数の笑い声が聞こえるけれど。
遠い?
まさかと思って、海に浮かぶ船に目を上げた。
そこには手を振る職人さんたちの姿。
年齢層は幅があるのに、憎めない仕草に思わず笑みが漏れる。
手を振り返し、口に手を当てて叫ぶ。
「おはようございます!」
そんな様子を、他社の人が見ていて当然なのだけど。
別の日に、場内で車に乗った全く知らない人たちが私に手を振った。
誰ですか?と思いつつ、少し引きつった笑顔を向けて手を振った私。
それが正解だったのか、私には分からなかった。
「あはは。それは数少ない若い女の子が嬉しいのもあるけど、愛想振りまき過ぎでしょ。」
そう笑うのは、他社のベテラン事務員さん。
造船所では、他社のライバル会社も“協力会社”と呼ばれる。
一緒になって大きな船を造るため、協力するための会社がいっぱい存在する訳で。
協力会の目的が、そういう類の統率なのか新人の私には理解できていない。
大げさに言うと謎の組織だったりする。
ライバルだけど情報は共有したり、社内だけで上手く隠したりと所長は大変そうだ。
他人事でいられるのは、いつまでだろうか。
「深元さんも若いじゃないですか、どう接するんですか?」
参考にしようと質問した私に、彼女は黒い笑み。
「相手次第。安売りはしない。」