短編集
いつものような軽い感じの忠告だけど、気をつけていた。
出来るだけ係わらないように。
油断していた?
そうかもしれない。
彼女は私と仲良くなることではなく、この造船所から消そうとしていたなんて。
思いもしない。
そんなチャンスを待っていたなんて…………
そして私をドン底へと突き落すような画策は実行に移されていた。
所長も木之下さんも不在。
私は事務所内の掃除をしていた。
そこへ造船所のお偉い様が登場。
「お疲れ様です。」
「あぁ、少し飲み物を頂けるかな?」
なんだろうか、いつもと少し雰囲気が違うような。
気のせいかな?
「はい、良ければ座ってお待ちください。」
アイスコーヒーを入れて、お偉い様の前にコップを置いた。
「三浦さんだったかな、君は俺の事をタヌキと言ってるそうだね。」
へ?タヌキ?
「私がキツネではない話と関係ありますか?」
思い当たる会話を振ってみるけれど、お偉い様、森脇(もりわき)さんは私が何を言ってるのか分からないって顔。
私も何が何だか分からない。
そんなお互いに考えている間に結論が出たのか、森脇さんは深い一息吐いた。
そして、いつもの雰囲気に戻ったような気がする。
「ふっ。君がキツネじゃないって、どういう話があったのか教えてくれるかな。多分、自分の事をタヌキと言った理由も判るだろうから。」
変なの。何故、そんな前の会話を知りたがるんだろうか。
でも、お偉い様の言う事だから何か考えがあるのだろう。
「確か、森脇さんが協力会社の事務員に書類の作り方の講習をされた日です。その事務所に帰る道で、深元さんが造船所のシステムについて難しい話をしてたんです。で、何のタイミングか澤田さんが深元さんをタヌキだと言ったんですよね。」
このタヌキめって。私は何の話なのか、よく分かってなかったけど。
そんな話、聞いてどうするのか未だに不明。
森脇さんは、じっと私が話すのを観察している。
はい、続けろって無言の圧力ですね。それくらいは分かりますよ。
「その後、深元さんが澤田さんもタヌキだと言ったので、きっと頭の良い人はタヌキなんだと思ったんです。それで、講演の後だったのもあり『森脇さんもタヌキですか?』と、聞いた気がします。二人は笑って『どうだろうね』と言うので、『私はキツネですか?』と聞いたんです。すると、二人から否定されました。以上で、タヌキとキツネの話は終わったと思うのですが。その話、森脇さんは誰から聞いたんですか?」
深元さんや澤田さんから聞けば、もっと詳しく分かったはずなのにな。
話し終った私に、また雰囲気の違う森脇さん。