短編集

そして、澤田さんの事務所に到着。
ここも別のライバル会社で、協力会社。

「え、何、何で走って来たん?」

PC作業が丁度終わった澤田さんは目を上げて、前に立つ私たちに驚いていた。

「所長さんは?」

「所長は現場だけど、呼んだ方が良い?」

「行くのは、私の方の事務所。出来れば現場監督も一緒の方が良いわ。増員の話が出たから。」

「え、マジか。ちょっと待って、電話するわ。」

何だか本当に、大騒ぎだなぁ。
増員が大変なのは知ってるけど、何でこんな大げさな事になったのかな。
森脇さん、急用を思い出したって言ってたけど、忘れちゃだめだよ。

「何を言ってんの。」
「原因はあなたよ。」

私の話を終えた後、二人は冷めたような視線で答える。
え?私の所為?

「怖いわぁ~。騙したキツネを、無意識で殺すんだもの。」
「そうよねぇ。しかも最恐の方法で。」

私が、無意識でキツネを殺した?
サイキョウの方法で?
まだ何もしてませんけど。

動物を殺したりするのも、ちょっと。
残酷なのは、私も嫌いなのですが?

不思議そうにしている私に、深元さんは真剣な表情を向ける。

「前に言った事、覚えてるかな?」

前に言った事。

「私はキツネじゃない。」って言ってましたよね。

「あはは。森脇さんからも言われたんだよね、騙される人間だって。まぁ……それもあまり良くはないけどね。計算せず、用心深くあるようにと私は言ったけれど、無理な話よ。あのタヌキを騙そうとする女狐が相手だったのだから。」

『あなたは計算しない方がいいわね。そうじゃなきゃ、何かあった時に私はあなたを助けてあげられない』

計算できるような状況把握も無理でした。

ん?女狐って誰の事だろうか。
今更の疑問。
あの森脇さんを騙したって事?

「Sペイントの大石さん、あなたを罠にかけようとして森脇さんに吹き込んだみたいね。」

それで森脇さんが知っていたんだ。
あぁ、雰囲気が違うと思ったのは怒りを隠していたから。そ
んなことも分からず、私は間の抜けたことを平然と。

本当にSペイントの人が怖い。
何故、そんな人を陥れるような事をするのか。

「それが会社の指示だったのか、彼女の独断だったのかなんて関係ない。結果も考えず、卑怯なことするから自業自得よ。」

私は、自分の言動の結果を知らなければならない。

「深元さん、これから何があるんですか?」

「Sシップとの請負を削減して、私たち協力会社に仕事を分散させるの。信頼を失えば仕事を失う。当然の結果ね。」

どうしよう。今まで、こんな考えなかったのに。

ざまあみろ。
木之下さんやトキくんの痛みを少しでも分かればいいんだ!と。


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