短編集

それからSペイントが抗議したけれど、森脇さんの怒りは増すだけだった。
そして初鹿野社長は大石さんの失態を知る。
後日談は、噂として流れて造船所に広がっていく。

「大石さん、クビになったらしいよ。」
「聞いた。表向きは、旦那さんの転勤でしょ。」
「え?お金にも手を出していたって聞いたけど。」
「あぁ、男にも手を出してただろ。自社他社問わずさ。旦那いたことの方がビックリしたわ。」

仕事だけ真面目にしようと、本気で決意する。

「お前は、本当に気楽っすね。まぁ、バカ正直なのが身を救ったわけっすから、良い事っす。けど。気を付けろよ、逆恨みしてもおかしくない。」


「大丈夫だよ、俺がいるから。」

え?この声…………

「キザな野郎の事、すっかり忘れてたっす。ほら挨拶しろよ。」

「改めまして、冨喜(トキ)です。よろしく!俺が護ってやるからな。」

思わぬ増員で人手不足の為、所長と木之下さんが探してくれたのだと聞いて。

「ちっ。簡単に見つかりやがって。本来なら、直ぐには入れないんだぞ。誰のおかげか、知ってるのか?」

「木之下さん、俺の為に必死で動いてくれてたよね。まぁ結果は、三浦っちのおかげだけど。俺、森脇さんから聞いたもん。」

え?私のおかげ?

「けっ。オヤジさんに会えた礼くらいは、言えないんすか?」

「その節は、ありがとうございます!オヤジも後からくる。腕には自信があるから、連れてきた俺に木之下さんがお礼を言っても良いよ。」

「ふざけろ!」

楽しそうで良いなぁ。
スパイだとか、Sペイントとか気にしなくても大丈夫って事なんだよね。きっと。

トキくんは木之下さんから背中を押され、私の近くに歩を進めた。


「トキくん、おかえりなさい!」

「ただいま。」




END
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