短編集

キスは愛情?


息を切らし、家に入る。

「桐沙(きりさ)!いる?今すぐ…?!」

二人を置いて、走ったはずなのに…
家には二人がリビングでお茶を飲んでいた。

「…な?なぁ??」

理解できないが、桐沙を探して台所を見渡した。

「桐沙は、弟と一緒だよ?」

私に微笑む奴…

「ぎゃぁあ~??桐沙に、何を??返して!あの子だけは私が…」

首を絞めるように、服を掴んで揺する。

「ふふ…積極的だね♪」

【チュッ】

……また、しやがったぁ~~??
距離をとり、唇を拭う。

「いい?地球人は、愛情をキスで増やさない!何度もされると、慣れちゃうんだから!へんっ!!もう、愛情どころか…メ、メロメロどころか飽きちゃったわよ!!」

踏ん反り、睨んでやる!

「ちょっと、待ってね?てことは、次のステップOKってこと?くふふ…何だ、標本が良いのかな?愛情は案外、簡単か。次のキスは…」

ブツブツと、どこからか分厚い本を開けて一ページ目。

「次のキスは…っと。」

……その分厚い本は、私の何でしょう??

「朱莉沙、家は決まっているんだ。荷物も送っているよ?」

私に追い打ちをかけるような父のセリフ。
ニヤニヤ…ずっと、そんな視線で私たちを見ていたのだろうか??

「家?荷物??」

とぼけたつもりはない。

「新居だよ♪結婚したんだ。子作りを、ここでは…ね?くすす…」

駄目だ。何かが、行き止まりの崖っぷち…嫌な汗が流れる。

「さて、朱莉沙?次に行っても良いよね?俺の花嫁…愛情を育てよう?キスで、俺にも愛情を頂戴。愛情が増えると、君からもキスをくれるんだよね?」

何?何か、色気??甘い囁き??
崖に突き落す気か?戻れない後一歩で、逃げ場を…逃げ場…

「い、一週間待って!!待って…私にも、その…準備と言うか…心の…」

「何を待つの?キス?一緒に住むこと?子作り?」

「全部!!」

「却下!俺の花嫁…標本に、拒否権なんかない。じゃ、教授…頂いていくね?」

奴が手を握ったと同時…体が浮いたような感覚を一瞬。
不思議な感覚に、目を閉じた。

「朱莉沙…愛の巣だよ?さ、次のステップ…」

握る手が、熱く…力の入っているのが分かる。
…こいつも、必死…?

目を開け、声のする方へと視線を向けた。

「…どこ、ここ??」

家ではない…

「愛の巣だよ?教授が準備してくれたんだ。俺達の結婚祝い…ね?キスをしよう?」

いよいよ、逃げ場を失った??
ドキドキする…嘘だ。キスで、愛情なんか育つものか!
これは、吊り橋効果に違いない。きっと…

「ね?逃げないってことは…良い?」

逃げていない?
違う…足が動かない。

怖い?違う…
首を必死で振った。

頬に、優しく手が添えられる。

【ビクッ】

「…嫌?」

傷ついたような…悲しそうな表情。
ずるい…母性本能が…

「嫌なら…逃げて。」

顔を上に向けられ、真剣な視線を注がれる。
近づく唇…

違う…駄目だ。
愛情じゃない…

【チュッ…】

軽いキス…視線を受けたまま…
目を閉じず、頭に過るのは…彼の話した知識。

惹かれる要素があった…魅力的な容姿に、声…愛を囁く。
落ちる…そんな感覚。

キスを受け入れたのは…愛情?増えている?

「…んっ…んん???ん~~~~~~!!」

舌には、絡む生ぬるく柔らかい何か!!
抵抗をして、解放された時には…また、身体に刻まれる記憶。

「次のステップは…はぁ…興奮する。このまま、促されるまま…求めても良いかな?」

何をでしょうぅ~~!?

「ダメ!まだ無理!!うわぁ~~~ん!」

「俺の花嫁…愛情を頂戴?標本…大事にする。俺の子を産んでよ♪ね?」




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