短編集

オマケ『名を呼んで…』


志茂田 孝彬(しもだ たかなり)

俺は、地球の環境に似た星で生まれた。
技術の進歩は進んでいたが、子の作り方を学ぶ時期を失ったまま地球へと逃れた俺達。

教授に出逢い、協力を得る。
花嫁の標本を手に入れた。
しかし、子を作るには…愛情がいるらしい。

教授から受け取った本は、分厚く…難しい。
本は、キスの仕方から始まるのだけど…キスにも、色々あるようで。
他にも、甘え方や視線・声の速さ等…事細かく書かれている。

ただの講義にも、そこまでしないと愛情は得られないようだ。
地球人は、大変なんだな…でも、手に入れた花嫁。
標本…俺の愛情が増すのを感じる。キスの力は素晴らしい。

重ねる唇は、甘い…味わう。
何かが満たされる…それなのに、もっと…もっと欲しい。
望みが際限なく…欲望に貪欲。
愛情の深さに、溺れそうだ…

「ね、朱莉沙…朱莉沙?名を呼んで…孝彬って。ね?呼んでよ…」

「…やっ…駄目、駄目だよ…」

拒否も、可愛い…
触れる手を、払いのけるわけでもない。

「ね?愛している…俺の花嫁…朱莉沙、ずるい。俺だけに、呼ばせて…俺の愛情を味わうくせに…」

「…孝彬…」

ただ、名を呼ばれただけなのに…満たされる。
愛しい…俺の名を呼ぶ唇に、キスを落とした。
何度したか…記録にはあるけど、回数は比例しない。

そんな愛情を、標本の君は俺に与え続ける。
データにならない愛情…与えて?もっと…俺に頂戴…

「朱莉沙…」

「…孝彬。」

キスは、愛情を増やす…際限なく…




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